でっきぶらし(News Paper)

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204号(2012年02月)5ページ

≪病院だより≫ブーちゃんお疲れ様

 皆さんは当園にある夜行性館を訪れたことはありますか?自動ドアから入ると午後二時半位までは真っ暗で、小さなお子さんは館内に入っただけで、怖がってしまう所を良く見かけます。今回はそこに住む動物のお話です。夜行性館には何種類かの動物たちが住んでいますが、館内に入って進んでゆくと最初に正面に見えるのがツチブタです。
 ツチブタはアフリカのサハラ砂漠より南に広く分布しています。夜行性で昼間は頑丈な爪を使って、掘った地下の穴の中で暮らしています。日が暮れるとアリ塚を頑丈な爪で崩して、長い舌を使って大好物のシロアリを舐めとって食べます。動物園では50〜60キロもあるその体重を維持できるだけのシロアリを準備することが出来ないので、当園では代用食として、馬肉のミンチとサル用のペレットを主体として、それにミルク、卵黄、栄養強化剤等を加え、お湯で混ぜ合わせて柔らかいペースト状にして、一日2回与えています。
 日本の動物園ではあまり飼育されておらず、当園を含めた数園でしか、国内では見ることができません。当園でのツチブタの飼育は、オスが一九八三年に来園したことで始まり、その翌年にメスが来園してペアで飼育することになりました。このペアがこれまで六回、繁殖して、最初の二回は人が育てた人工保育として成育しました。このツチブタの人工保育は日本で初めての成功でした。
 その後、母親が一回自分で育て上げ、この三頭は国内の別の動物園へ旅立ってゆきました。一九九九年にペア相手のメスが死亡してしまい、オス一頭で一人暮らしをしていました。このオスはいつ間にか「ブーちゃん」と呼ばれるようになりました。ここ数年は寄る年波には勝てず、上手く歩くことがあまり出来なくなり、巣穴に入って、寝ていることが多くなってきました。このため、腰骨の辺りなどが床にあたってしまい、床ずれが出来るようになってきました。飼育担当者も敷きわらを多くするなど気を使い、獣医も毎日獣舎に入り、巣穴をのぞいて、傷の様子を見ることが日課になっていました。
 ツチブタは頑丈そうに見えるのですが、傷が化膿しやすく、それが全身に回ってしまうこともあり、その点について気を配らなくてはなりません。傷が出来れば消毒して、絆創膏を貼ったりしました。また、眼ヤニも多く出るので、きれいに拭いて、目薬をさすこともしょっちゅうでした。
 そんなおじいちゃんのブーちゃんですが、驚いたことがありました。一年ほど前に、担当者がブーちゃんの内腿に白い粘液がついていると知らせてくれて、獣舎に見に行きました。結構ねっとりとしていて膿ではなさそうです。動物病院に戻って、顕微鏡で調べてみると、オタマジャクシのようなものが見えました。そう、これは精液だったのです。さすが6頭の種をつけたお父さんですが、歩くこともおぼつかない状態で、まだ子供を作る能力が残っているとは、担当者とともにびっくりしました。
 昨年の十二月に入るとかなり採食量に幅が出てくるようになりました。それまでも多少の波はありましたが、今回は様子が違っていました。全く採食しないことも出てきたので、担当者も餌を軟らかめに作って、ブーちゃんに食べさせてあげるようにしました。自分で立っていられないので、体を支えながらの給餌です。この頃になると痩せが目立つようになり、しっかり立っていられないためか、倒れた時にぶつけたのでしょうか、左脚の膝辺りに傷があり、腫れあがってきました。傷が広がってはいけないと抗生物質や炎症を抑える薬を注射しました。膝の腫れもおさまりつつあり、採食も波はあるものの、全く食べないことはなく、何とか年を越せるかもしれないと考え始めていましたが、十二月二十五日の午前中にいつもの巡回に行くと、いつもより若干体温が低く感じられました。
 そして、その日の午後、担当者から無線が入りました。世話をしている最中に意識がなくなったそうで、駆けつけた時には死亡していました。ブーちゃんは来園時には成獣でしたので、三〇才を超えていたかと考えられ、大往生と言えると思います。最期まで担当者に世話をして貰い、看取られながら息を引き取ったブーちゃん、長い間お疲れ様でした。

動物病院担当 金澤 裕司

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