207号(2012年08月)3ページ
シロサイの繁殖に向けて
はじめまして。この春から飼育技師として働いています。シロサイとマレーバクを担当しており、今回はシロサイのお話をしたいと思います。
シロサイにはキタシロサイとミナミシロサイの2亜種がいます。当園で飼育されているミナミシロサイは、野生下の生息数がわずか100〜200頭ほどにまで減少した時期もありましたが、多くの人の保護努力によって今では約2万頭にまで増え、そのうち約9割が南アフリカ共和国に生息していると言われています。私は2009年に南アフリカ共和国を旅行しました。残念ながらサイの生息地には行きませんでしたが、アフリカの自然と、発展・開発による環境の変化を感じました(アフリカ旅行記はまたのちほど)。
さて、当園で飼育しているシロサイ2頭はどちらも国内の動物園で生まれ、日本平動物園にやってきました。これまでの飼育担当者が愛情をたくさん注いで飼育してきてくれたおかげで、2頭とも非常に人懐っこく、お客様のすぐ近くで愛嬌ある姿を見せてくれています。そんな2頭の様子を間近で見て、興味を持ったお客様から「サイの子供はいないのですか?」という質問をよく受けます。残念ながら、当園のシロサイはこれまでに一度も繁殖しておらず、交尾すら確認されていないのが実情です。
シロサイは複雑な社会構造を持ち、野生では数頭の群れで暮らしているため、最低でも雄1〜2頭と雌3頭の群れで飼育すべきだという報告があります。また、シロサイの繁殖可能年齢は5.6〜31.1歳だと言われています。当園では飼育スペースが限られているため群れ飼育が出来ず、サイコは今年31歳になりました。また、サイコの方が気が強く、タロウが“草食男子”になってしまっていることも繁殖できない理由かもしれません。
状況は非常に厳しいですが、まだ繁殖する可能性がゼロになった訳ではありません。わずかでも可能性が残っている以上、飼育技師として出来ることは全てやらなければ担当動物に対して失礼だと思い、6月から大学と協働してシロサイの調査研究を始めています。内容は行動観察とホルモン測定です。清掃作業中や他の動物の世話をしている間はシロサイを観察できないため、放飼場にデジタルカメラを設置して行動を録画し、帰宅後や休日に見直して記録をとっています。同時に、大学で糞や血中の性ステロイドホルモンを測定していただくことで、観察された行動と生理状態の関係性について明らかにしたいと思います。
飼育担当者がベテランから新人に変わったからといって、動物は待ってはくれません。新人である私が、1日でも早く動物の状態を把握し適切に対処できるようにならなければ、動物は繁殖の機会を逃し、あっという間に繁殖できない年齢に達します。後になって「あの時こうしておけば繁殖できたかもしれない…」と後悔しないように、10年後や20年後も日本平動物園で元気なシロサイが見られるように、精一杯頑張ります。2頭の近況や調査によってわかったことは、随時サイ舎の展示でお知らせしていきたいと思います。みなさまも、シロサイ2世の誕生に向けて、サイコとタロウを応援してください。
飼育担当 横山 卓志