でっきぶらし(News Paper)

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207号(2012年08月)6ページ

スポットガイドだより

≪5月20日 ホッキョクグマ≫

 5月20日・13:30より、ホッキョクグマのZOOスポットガイドを猛獣館299で開催しました。
 猛獣館299に詳しい方々ならばお解かりになると思いますが、ホッキョクグマの展示コーナーは、その中心的な場所と言えるのが、1Fのゴマフアザラシと隣接している大水槽?前です。今回、出来ればこの場所でスポットガイドを行いたいと考えましたが・・・これも猛獣館を御存知の方々であればご推察していただけるかと思うのですが、この場所は殆どいつも混雑しており、更に日曜日は(20日は日曜日でした。)たくさんの観客の方々で大混雑しています。
 その為、『ロッシー!バニラ!』等の歓声が飛び交う、人々でゴチャゴチャの通路空間でスポットガイドを開催するには非常に無理がありました。そこで今回のガイドは、1Fではなく2Fにある、ホッキョクグマを見下ろす形になる展示・観覧テラスを会場にしました。ここであれば、混雑による色々な問題を最小限に出来るからです。
 もう、言わずと知れた事実になっていますが、当園のホッキョクグマのコーナーは、現在のところ日本平動物園で最も人気がある場所です。しかし、この2Fテラスは1Fよりも立ち寄る方々がやや少なく、スペース的にも開放されているので、その点でもこの場所を選定しました。
 さて、ガイドが開始され、担当者の解説が始まりました。一般的なホッキョクグマの説明を皮切りに、おそらく皆さんが一番知りたいロッシー(♂)とバニラ(♀)の個体説明や日常の様子・普段食べている餌の紹介を中心に、様々なお話を丁寧にしました。その間、1Fにいるロッシーとバニラは何度もプールに飛び込んでいたらしく、バッシャンバッシャン・ドッパンドッパンと盛大な水音を立てており、その度に観客の方々から大きな歓声が上がり、担当者の解説の声もかき消されてしまう程でした。
 ・・・この人気者の【ホッキョクグマ】・・・実は様々な環境破壊〜気候変動の影響による飢餓等で、現在、自然界では急激にその数を減らしています。加えて、彼らは他のクマ、種類では【ヒグマ】と共通の祖先を持っている為に、遺伝学的にはヒグマと非常に近く、不幸な条件が揃ってしまった場合、混血・混雑してしまいます。簡単に言えば、ホッキョクグマとヒグマの【雑種】が出来てしまうのです。
 じっさい、環境破壊〜気候変動によって主な生息場所である氷原が減少し、他の地域に移動するしかなかったホッキョクグマと、彼らが移動してしまった先に生息していたヒグマとの間で、この雑種が生まれているのが確認されています。こうなると、もうホッキョクグマともヒグマとも呼べず、この段階でホッキョクグマと言う1つの種が、あくまで個体としてのレベルですが、生物学的に失われた事になるのです。
 これもまた、ひとつの【滅び】の形態です。ロッシーとバニラの仲間達は今、自然界でこうした絶滅の危機に瀕しているのです・・・・・・。

≪6月17日 アムールトラ≫

 猛獣館299・2階で、6月17日・13:30よりアムールトラのスポットガイドを開催しました。
 一般?の方々がアムールトラに、どんなイメージを持っているか判りませんが…実はこのアムールトラと言う動物は(私が知る限りの話ですが)、非常に温厚な個体が多く、担当者に対して、そして時折り関わる他の動物園関係者に対してさえ、とても友好的です。……知っている人間が自分の近くに来たり、その姿が見えた時、鼻をフフフンッ!と鳴らすトラ特有の挨拶を、彼らに関わる程度や時間に差があったとしても、ほぼ必ずしてくれるのです。アムールトラの側で過ごしていると判りますが、これは間違いなく親愛の挨拶であり、更に彼らは、他の多くのネコ科動物達と比べて喜怒哀楽を感じさせる表情が豊かなので、顔を見ているだけでもこちらに親愛の情を持っているんだなぁ…と判るくらいです(反対に機嫌が悪い時もすぐ判ります)。
 自然界でのアムールトラの主な生息地〜ロシア・中国国境付近のアムール川・ウスリー川周辺で暮らす現地の人達も同じ感想を伝承しており、人間が過度に干渉したり、彼らが何らかの理由で極端に飢えていたり、怪我をしていない限り、襲ってくる事が殆ど無い、大変頭が良い動物として昔から知られています。
 確かに、彼らの知能の高さは一緒に過ごしていると驚かされる程で、例えば猛獣館299には他に3種のネコ科〜ライオン・ピューマ・ジャガーがいますが、この3種は基本的な部分で人間に無関心な様子で、話しかけてもあまり反応が見られない事が多いのですが、アムールトラは明らかに違って、声をかければこちらをちゃんと向き、鼻を鳴らして近寄ってきたり、じっと顔を見つめてきたり、その時こちらが不機嫌だったり怒っていたりすると、困った表情をしたり同じ様に不機嫌になったりします。つまり、【自分に関わっている人間】の表情や態度を、ほぼ読み取る事が出来るのです。
 加えて、再び、【関わっている人間】に限定されますが、その言葉さえ、かなり理解している感じがしますし、物凄く好奇心旺盛で、暇な時、自分で娯楽?を見つけて楽しそうに遊んでいたりします。
 当園には現在、お母さんのナナと、フジ(♂)チャチャ(♀)と言う2頭のこどもがいますが(こどもと言っても、もうお母さんと同じくらいかそれより大きくなりましたが)、今回のスポットガイドではこの3頭の各個性を説明しながら、アムールトラについてあれこれお話しました。
さて、ホッキョクグマのスポットガイドの章でも取り上げましたが、動物がどんどんその数を減らしている現実、これはアムールトラにもそのまま当てはまります。アムールトラは、乱開発による環境の悪化や誤解による駆除、毛皮・漢方薬系の原料になる骨等を目当てに膨大な頭数が殺戮され、自然界では数百頭にまで激減し、あくまで報告例ですが、他の種類のトラと混血・混雑も指摘されています。
 当園を含め、各地の動物園で人気があり、熱狂的なファンもいるアムールトラ。
彼らもまた、忍び寄る【滅び】に直面している種であり、その【滅び】の原因の多くを生み出したのは……他ならぬ人類なのです。

ZOOスポットガイド班 長谷川 裕

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