210号(2013年02月)4ページ
≪実習だより≫
みなさんは“環境エンリッチメント”という言葉を聞いたことがありますか?環境エンリッチメントとは飼育環境を豊かにし、動物が動物らしく、自然に近い状態で、幸せに暮らせるようにする工夫です。私は大学で、この環境エンリッチメントに関する研究をしているのですが、どのような道具を与えたら動物たちは飽きずに遊ぶのか、行動レパートリーが増えるのか検討しています。やはり、大学で本や論文を読むだけでは答えはでません。そこで今回私は日本平動物園でホッキョクグマとゴマフアザラシに着目し、実験をさせていただきました。
まず、ゴマフアザラシでは浮き、氷そして鏡といった3つの道具を用意しました。浮きはよく水族館や動物園でよく見かける遊び道具だと思います。氷は小さなバケツくらいの大きさで、そして鏡はミラーシートというものを貼りつくりました。この、形状も質も特性も違う3つの道具のうちアザラシたちはどの道具を好み、どんな行動をしてくれるのか、道具を投入した時のアザラシたちの様子を観察しました。最初は警戒していたアザラシたちも日が経つにつれて道具に慣れてきたのか、浮きをつついたり、氷をかじったり、鏡の前でくるくると回ったりといった、面白い反応をみせてくれました。特に女の子のシズはとても好奇心旺盛で、浮きや氷に対して様々な行動を見せてくれました。例えば浮きを前脚でつかんだり、氷を咥えて円柱水槽の下の方まで持っていったりと、シズも楽しんでくれているようで嬉しかったです。もちろん、道具に対して飽きることもあるのですが、それもデータとなります。そこでもっと飽きずに遊んでくれる道具などを考えていきたいと思いました。
次にホッキョクグマです。ホッキョクグマにはゴマフアザラシで使用したものと同じ鏡を見せてみました。ホッキョクグマに鏡を見せたらどうなるのだろう?とまったく想像がつかず実験を行う前は不安でした。しかしそんな不安もすぐに吹き飛ぶほどホッキョクグマたちはいろいろな行動を見せてくれました。男の子のロッシーも女の子のバニラも、鏡を見せるとすぐに気が付き、近寄ってきました。鏡の前では口を開けたり、立ち上がったり、鏡の前のガラスを叩いたりなど、ここでは説明しきれないほど、たくさんの興味深い動きを見せてくれました。またバニラが鏡に夢中になっていると、鏡を見るバニラをロッシーが邪魔をしたり、ふてくされたようにお座りをしながらも、バニラを気にするようにチラチラ見ていたりとそんな面白い行動も見られました。
今回の実験で、担当の河村さんには、ゴマフアザラシ3頭とホッキョクグマ2頭について個体の識別方法や動物たちに関する詳しい説明をしていただいたり、実験に関するアドバイスをいただいたりと大変勉強になりました。また、実験の合間にたくさんの飼育担当の方々とお話しする機会があり、担当する動物の詳しい説明や面白エピソードを話してくださるとともに、「どんな実験をやっているの?」と聞いてくれた方や、実際に実験場所まで見に来てくれた方など、多くの方が実験に興味を持ってくださり、とても充実した実験期間となりました。
短い間でしたが、お忙しい中動物園の方々には親切にしていただき、大変お世話になりました。実験を行う前は浮きや氷で遊んでくれるのか、鏡に対して反応があるかなど不安ではありましたが、多くの行動を観察することができ嬉しく思います。このような結果を得ることができたのも実験にご協力していただいたおかげです。本当にありがとうございました。
東海大学 海洋学部 海洋生物学科 南條 由香里