でっきぶらし(News Paper)

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210号(2013年02月)5ページ

≪病院だより≫日本平ほねほね団

 動物園では多くの動物を飼育していますが、生き物ですから「死」は付き物で、いずれ死を迎えることになります。その時には原因を探るために解剖を行います。解剖はそれまでの飼育方法や処置が良かったのか、悪かったのか、今後同じような症状が出た場合にはどのようにしたら良いのかを考える機会を与えてくれます。今回はその解剖の後の話です。
 当園では昨年の秋にビジターセンターがオープンしました。学習、情報発信などの場として、人・動物・自然の繋がりを学ぶとともに、「種の保存」「命」「環境」の大切さを伝えることを目的としています。ビジターセンターでは標本を展示していますが、ほとんどが当園で飼育していた動物たちです。はく製もありますが、多くは骨の標本です。はく製はきれいに作ることが難しく、技術が必要なので、プロに作ってもらいますが、骨の標本は私達が作っています。これには死んでしまった動物を、皆さんの前にもう一度展示してあげて、「何かを感じて貰えたら、何かを伝えられたら」という気持ちがあります。そのために解剖の後に、標本として残したい動物は冷凍したりして、いつか組み立てようと保存しています。
 ビジターセンターを開館するにあたって、今までに作成、保存してある標本を調べました。そこで「もっと色々な標本が欲しいなぁ」と感じたので、標本の作製を更に進めてゆくために「日本平ほねほね団」を結成しました。名前は大げさですが、規則などがあるわけではなく、骨格標本を作ってみたいという職員とそれを手伝ってくれる職員たちの集まりです。
 骨と骨は筋肉などで互いにつながっています。今まで骨格標本を作る場合は、大抵は筋肉をできるだけ取り外して、あとは腐らせる方法で行っていました。腐らせたあとに、骨にまだ残っている筋肉などをはずしてゆきます。この作業は強烈な臭いの中でやるので、女性職員はそれを行った日はデートができないと嘆いています。骨だけになったら、漂白などして、組み立ててゆきます。
 当園では毎年、年が明けると「干支展」を開催しています。その年の干支の動物に関する展示です。今年はヘビ年ということで、ヘビの骨格を展示したいと思っていましたが、完成した標本がほとんどありませんでした。ヘビは、頭の他はほとんど背骨とあばら骨で成り立っています。背骨の数は種類によって違いますが、百五十~四百以上と言われていて、その形はほとんど同じです。あばら骨は一つの背骨に一対ずつ付いていて、あばら骨の形もほとんど同じです。このように骨の見分けがつきにくい場合はそのまま腐らせてしまうと「バラバラ事件」が起こってしまいます。骨が全てバラバラになってしまい、その後に組み立てようとしても、どの骨がどの部分なのか分からなくなってしまうのです。平成二二年に体長三メートル以上のビルマニシキヘビが死亡してしまったのですが、いつか標本にしたいと思って、どうやって作ろうかなと考えつつ、冷凍庫に保存していました。
 そんなある日、団員の一人のふれあい動物園のヘビの担当者が薬品を使って筋肉などを溶かして作った、アオダイショウの全身骨格標本を見せてくれました。この方法は一つ一つの骨をつなげたまま、余分な筋肉などを取り除く方法です。非常に良い出来栄えだったので、大きさはかなり違いますが、同じような方法でやってみようと、ビルマニシキヘビも作り始めました。そのままでは大きすぎて薬につけることも難しいので三つの部分に分けてから作業を始めました。まずは出来る限り、筋肉を外してゆきます。これは結構大変で地道な作業で、骨を傷つけないように進めてゆきます。その後、薬品で筋肉を溶かしてゆきます。骨がバラバラにならないように溶け具合を見ながら、薬品から取り出して、再び、余分な筋肉などを取り除き、また薬品に付けることを数回繰り返しました。余分な筋肉を取り除いた後に、漂白なども行って、骨がきれいになったら分割した部分を合わせてゆきます。体が長いので形を整えるのにも苦労しました。そして、制作日数、約一カ月以上、「バラバラ事件」が発生することもなく、ようやく「干支展」に展示することが出来ました。複数の団員の努力の結晶です。
 このビルマニシキヘビは「きょうこ」という名前でふれあい動物園で飼育していました。平成一六年に来園した時の体長は六〇センチで体重は二八〇グラムでした。生前はふれあい動物園で皆さんに可愛がってもらっていたので、「きょうこ」に触ったことや抱っこしたことがある方もいるかもしれません。便秘で悩んだこともありました。死亡してしまった時には体長三メートル以上、体重は一五キロを超えていました。そして、死んでしまった後も標本となって、ヘビの「体のつくり」を伝えてくれています。標本は動いたりすることはありませんが、日本平動物園で飼育し、生きていた「証」として展示し、標本でしかできない「何か」を皆さんに伝えてゆけたらと考えています。

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