でっきぶらし(News Paper)

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234号(2017年02月)4ページ

「トリに入れ歯のプレゼント!?」

 皆さま、明けましておめでとうございます。
 今年はトリ年ということで、病院だよりはあるトリのくちばしの話でスタートします。
 昨年末のある日の仕事終わりに、熱帯鳥類館の代番飼育員(担当飼育員が休みの日に作業をする副担当者)から、「ダイモスのくちばしが”いかりや長介”みたいになっている気がするので、明日けずってください」 と言われました。なんだかよくわからないけど、とりあえず次の日、歯をけずる道具を持って熱帯鳥類館に行ってみました。ダイモスというのはオスのワライカワセミの名前で、彼は3年半ぐらい前に北九州の到津(いとうづ)の森公園から来園しました。その名のとおり高らかな笑い声で鳴く、なかなか愛らしいトリです。ダイモスを正面から見てみると、上下のくちばしが左右にズレて咬み合わなくなっていました。「いかりや長介っていうのはこのことか…」と思いながら、つかまえて口をこじ開けてじっくり見ると、なんと下のくちばしの根元に近い方が半分割れて、下のくちばしだけななめになっていました。実はダイモスの下のくちばしには穴が1つ開いていたのですが、その穴が広がって端の細い部分が折れてしまったのです。くちばしが伸びて咬み合わせが悪くなったと思っていた飼育員(この日も代番者)と私は驚いて、こりゃ大変だという感じでそのままダイモスを動物病院に運びました。
 さて病院へ運んだのはいいけど、とりあえずどうしよう…。今日も明日も獣医は自分一人、病院飼育員は臨時職員一人、担当飼育員は休み。これ以上ない手薄な日です。年末とはいえさすが厄年です(私の個人的なことですが)。このままだと下のくちばしが完全にパッカーンと折れてしまうので、考えていても仕方ありません。とりあえず応急処置をすべく、診療室にある瞬間接着剤を手に取ってみました。…が、古くて固まっていて一滴も出ません。急いで管理事務所に走り、「誰か瞬間接着剤を持っていませんか!?」と聞いたところ、車の中に私物があるとの救いの声があり、すぐ借りて病院へ戻りました。
 すぐにダイモスをコンテナの中に入れてガス麻酔をかけ、眠ったところで口を開けて治療開始です。折れたくちばしを接着剤でくっつけ、細長く切ったステンレス板のシーネ(副木)をくちばしの横に当て、そのままテーピングという作戦です。結果は…大苦戦でした。何度麻酔をかけて眠らせても1~2分でダイモスが起きて暴れるので、ちっとも作業が進まないのです。「なんて麻酔に強い鳥なんだ!」と思いながらくちばしと格闘し、なんとか固定に成功しました。やれやれ…といった感じでダイモスを2階の入院室に入れてエサ(マウス)をあげ、「このままではマズい。もっと人のいる時に仕切り直ししよう」と心にちかってその日は終わりにしました。
 後日、上司が「超強力ゼリー状瞬間接着剤」と「超強力補修パテ」をホームセンターで買ってきてくれたので、一週間後に本格的な治療に再チャレンジしました。前回の麻酔の効きの悪さを考え、今回は細いチューブを口から入れて気管挿管して麻酔をかけました。おかげでグッスリです。さて、おとなしくしている間に工作(治療)開始です。くちばしの折れた断面に超強力接着剤を流し、そのまま折れた部分や穴も全て粘土状の補修パテで包み込んで、指でくちばしの形に整えながら固めていきました。つまり、下のくちばしの三分の一ぐらいをパテで作り上げたのです。トリ版の部分入れ歯といったところでしょうか。なかなか良い感じに仕上がり、耐久性も良さそうです。
 無事に麻酔から覚めて入院室に戻すと、少しして高らかな笑い声が聞こえてきました。ちなみに今日はクリスマスイブ。新しいくちばしは獣医からのクリスマスプレゼントです。今までと違った体の一部にとまどっているとは思いますが、次の日にはマウスを食べていました。これでやっとひと安心です。
 新しいくちばしで数日すごして慣れてきた新年早々、もう一度つかまえて最後の仕上げを行いました。上のくちばしの横にはみ出している部分と下のくちばしの伸びきった先っぽを切り落とし、先日の補修パテのデコボコした所を削って咬み合わせを良くしました。麻酔なしでしたがなんとか仕上がり、意気揚々と退院していきました。
 熱帯鳥類館へお越しの際は、ぜひダイモスの自慢の入れ歯を見てやってください!

(動物病院係 塩野 正義)

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