でっきぶらし(News Paper)

一覧へ戻る

« 239号の1ページへ239号の3ページへ »

239号(2017年12月)2ページ

アカテタマリンの難

 4月、新年度ということで飼育担当替えがありました。初めてこのでっきぶらしの記事を担当したときにはまだ新人飼育員だったわたしも、今年で5年目になりました。その間にいろいろな種類の動物を担当させてもらい、1頭1頭との思い出がたくさんできました。まあ、5年目なんて飼育員としてはまだまだひよっ子なのですが・・・。
そんな担当替えで、今年度は小型サル舎の担当になりました。小型サルと一言で言っても、日本平動物園は飼育しているサルの種類がとても多く、なかなか大変な担当に当たってしまったなあと頭を悩ませていました。日本ではなかなか見ることのできない「エンペラータマリン」や「シロガオマーモセット」など珍しいサルもいて、小型サル舎だけでも12種のサルたちを飼育しています。ちなみに日本平動物園には小型サル以外にも、中型サル、大型類人猿もいますが、それぞれ別の飼育員が担当しています。
 担当が替わると、まずは新しく担当する動物たちの生態や特徴を覚えたり、飼育作業の手順を覚えたりと、しばらくは慌ただしい日々が続きます。そんなドタバタまっただ中の4月中旬のある日、「アカテタマリン」を他の動物園に搬出するという話が舞い込んできました。当園で繁殖した個体を、他の園に移して新たな繁殖に貢献してもらうためです。つまりは婿入り、嫁入りというわけです。アカテタマリン夫妻には毎年順調に子どもが生まれていて、おととし生まれた2頭も立派なおとなになったので、千葉市の動物園に行くことになりました。
動物を移動させるためには、まずは動物を捕獲しなければなりません。ヤギやウサギなど飼いならした動物であれば、捕まえるのにそんなに苦労しませんが、アカテタマリンはじめ小型サルたちは警戒心が強く、「おいで~」と言って来てくれるなんてことはまずありません。なので“アカテタマリン捕獲作戦”をたてて、飼育員と獣医数名で4月22日に捕獲をすることが決まりました。
 さて、いよいよ捕獲当日の朝、いつも通り出勤してサルたちの様子を見に行くと、あれ?なんだか様子がおかしいぞ?6頭いるアカテタマリンのうちの1頭が、やけに太って見えるのです。こんなに大きかったかな~?なんて思いながら見ていると、背中にこんもりと山のようなものが2つ。んんん?なんだこれは・・・よくよく見てみると、なんと赤ちゃんが2頭、背中にくっついているではありませんか!アカテタマリンは全身真っ黒でフサフサした毛に覆われているので、見ただけでは体型がわかりづらく、お母さんが妊娠していたことに全く気付かなかったのです。それにしても何の因果か、捕獲作戦の決行日に生まれなくても・・・。慌てて獣医に連絡し、その日の捕獲を中止するかどうか相談しました。捕獲の騒動で赤ちゃんがお母さんから落っこちたら大変ですからね。しかし嫁・婿入りの日程はすでに決定していて、この日に捕獲しなければいけないという結論に至り、捕獲作戦は慎重に、かつ確実に行われることになりました。
 まず捕獲対象のおととし生まれの子ども2頭を、他の個体と隔離します。この隔離する段階で、まちがえて他の個体を入れてしまわないか心配でしたが、運よく対象の個体が隔離スペースに入ってくれて助かりました。そこからケージの中で網をブンブン振り回して、アカテタマリンを捕まえます。この作業は昨年度まで小型サル担当であった飼育員がお手本を見せてくれて、無事に捕獲が完了しました。その日生まれた赤ちゃんたちは、壁の向こうで何が起きているかなど知る由もなく、お母さんの背中の上ですやすや眠っていました。
そんなこんなで慌ただしい一日が終わり、その後婿・嫁入りも無事に済み、赤ちゃんたちは現在もすくすくと成長しています。アカテタマリンたちはとても小さなサルですが、そのたくましさには驚かされました。ひよっ子飼育員のわたしもこの小さな同僚たちを見習って、たくましく成長していきたいと思います。
(川合 真梨子)

« 239号の1ページへ239号の3ページへ »

一覧へ戻る

ページの先頭へ