240号(2018年02月)2ページ
マンドリル サマンサ奮闘記
昨年11月に来園し、12月に公開となったマンドリルの新しい家族、サマンサ。公開の際には多くのメディアに取り上げられ、生まれ故郷の京都からサマンサに会いに来てくださる方もいらっしゃり、一躍人気者となりました。現在は当園のメス・マロンと2頭で暮らしており、柵越しにオス・ジョジョともコミュニケーションをとっています。一見、関係良好、順風満帆に見えますが、実は当園のマンドリル達は個性が強く、サマンサの来園が決定してから公開に至るまで、いえ、公開してからもたくさんの苦労がありました。今回はそのエピソードを少しだけご紹介しようと思います。
サマンサの来園が決まったのは昨年、夏頃。長年マンドリルの若いメスの導入を希望していた当園にとっては非常にうれしいニュースでした。マンドリルは雌雄すでに2頭いるのに何で新しくメスが欲しいの?と思うかもしれませんが、マンドリルは本来一夫多妻(が主流)の大きな群れを作る動物です。そのため1対1ではメスの負担が大きくなりがちです。しかもオスのジョジョはメスのマロンにぐいぐい迫りすぎて嫌われてしまった経緯があり、長年別居をしていました。加えてマロンは今年で25歳と高齢(マンドリルの寿命は30歳くらいといわれています)。繁殖を目指すには少し無理があるのでは?というのが現状でした。
待望の若いメスの来園、しかし、困ったことにジョジョはレディの扱いが全く分かっていないのです。マンドリルも含め、サルの仲間は本来群れの中で生活することで他個体との関係を学びます。特にマンドリルは雌雄の体格差が大きく、オスが力加減を誤ればメスが大けがをしてしまいます。ジョジョは一人暮らしが長く、マロンのことを柵越しに見てはいるものの、マロンは全く構ってくれません。マロンと接するときはマロンの発情がきている時に5分程度しかありませんでした。これではメスに対する距離を分かれという方が無理というもの。なんとかしなくては。
加えてマロンもマロンで問題がありました。そう、マロンは一人暮らしが安心する孤高のお嬢様系マンドリルなのです。人には懐っこく、お尻を撫でてもらうのが大好きのマロンは歴代の飼育員に愛され、甘やかされてきたのですが…。ジョジョに対しては威嚇し、逃げるのが常。若いころにはジョジョとともに、同居していたメスをいじめてしまった過去もあります。その頃の怪我なのか、先天性のものなのか定かではありませんが、マロンは足が悪く、サルとは思えない鈍さ。大丈夫なのかこれは。
というわけで、サマンサを無事迎えるため、獣医と会議を重ねました。そして「動物病院でマロンとサマンサをお見合い→マロンとサマンサの同居訓練→2頭一緒に中型サル舎へ→ジョジョとマロンとサマンサでお見合い→3頭同居訓練」という方針を固めました。3頭展示をめざし、サマンサが来園する前に、マロンとジョジョは同居訓練を開始。最初は発情が来た時に数分、発情が来てなくても数分、徐々に1時間、2時間と時間を延ばし、サマンサが来園するころには放飼場ではずっと同居していられるようになりました。
さてついにマロンとサマンサの同居訓練。サマンサは故郷の家族と別れたさみしさもあり、マロンにべったりくっつこうとします。が、マロンは鈍い動きで逃げる逃げる。速いサマンサから逃げられるわけはないのですが。嫌がっているようではストレスになるため、こちらも短時間からのスタート。少しずつマロンもサマンサを受け入れ始め、サマンサもマロンとの距離を覚えました。一緒にご飯を食べるときはサマンサが速いのでマロンも必至。かつてないマロンのスピードと必死さが見ている方は面白くて、ほほえましくて一同大爆笑していました(動画は永久保存版です)。
いろいろありながらも無事、2頭揃って中型サル舎へ。ジョジョはマロンの帰還とサマンサとの出会いにすごく喜んでいました。というのもジョジョはマロンが動物病院に行ってからさみしくていじけていました。マロンの部屋へ行ける扉の前はもともと彼のお気に入りスポットですが、それにしたってそこから全く動かない。表情も明らかに落ち込んで、自慢の派手な顔も心なしか色落ち、指を噛むなどのストレス行動も見られました。しかし、こればかりはどうしようもないので大好きな大きめの枝をたくさんあげて、餌をあちこち隠したり、ドングリやヒマワリの種など食べるのに時間がかかるものを多く与えたりして気を紛らわせることで、少しずつ落ち着いていきました。帰ってきたマロンと初めましてなサマンサにジョジョは餌も放ってご挨拶。ジョジョに対してマロンは相変わらず威嚇していましたが、サマンサはご挨拶をし、柵越しに見つめ合っていました。ジョジョとサマンサの関係は良好なようで、私たちも一安心です。
※P3に続く・・・