でっきぶらし(News Paper)

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241号(2018年04月)2ページ

チンパンジーの赤ちゃん その後…

 でっきぶらし238号でも報告しましたが、日本平動物園で昨年8月17日に15年ぶりにチンパンジーの赤ちゃん(性別オス)が誕生しました。今回はその後について報告します。生まれてからは母子ともに落ち着いていて、仔は順調に生育し、授乳もすぐに確認出来ました。様子観察と健康管理のため10日間ほど室内で過ごしていましたが、28日に親子と姉のレンゲの3頭で初めて放飼場に出しました。とても落ち着いていてスムーズに行きました。時々、レンゲが仔を気にして手を出し触る事もありましたが全く気にしていない様子で、母親は初日にもかかわらず、レンゲに仔を預けて抱かせる事もありました。さすがにそれを見た時は、落としたりしないかハラハラさせられました。少しずつ仔にも意思が芽生え、嫌な時は大きな声を出したり、また飼育担当者が声をかけると返事を返してくれるようになってきました。
 順調に進んでいた矢先、10月27日の午後辺りから仔がずっと鳴いているので、室内に収容後確認するとどうも足を痛めたらしく、母親が動くだけでも鳴き叫ぶほどでした。その日はとりあえず様子見とし、翌日もやはり動く鳴くの繰り返しで母親も戸惑いを隠せない様子で、移動の際は仔をそっと抱き刺激が伝わらないようにしているといった感じでした。状態が変わらなかったため、29日に母親に麻酔をかけ仔を一時的に預かりレントゲンを撮ることにしました。
 レントゲンの結果、左大腿骨骨折の大怪我でした。すぐにオペが必要となり、折れてしまった骨を繋げるため皮膚を切開しピンを骨髄の中に挿入しました。オペは無事に終了しましたが、獣医師の方から衝撃的な事を伝えられ愕然としました。完治するまで順調に回復しても最低でも3カ月以上はかかるということです。想像以上の深刻さに頭を悩まされました。話し合いの末、担当者としては出来る限り親元で育つことを優先してほしいと伝え了解を得て怪我の完治途中であっても一旦母親の元に戻すことを決めました。母乳が止まってしまう心配があるため、1か月以内を目途に人工保育に切り替えました。定期的にレントゲンを撮り状態を確認しながらの飼育でしたが、驚くほどの回復ぶりが見られました。タイムリミットぎりぎりの11月27日、約1か月ぶりに母親の元に戻す試みをし、母親はすぐに仔を抱きかかえ仔も鳴くことなくスムーズに受け入れてくれました。まずは一安心。
 気掛かりなのは生きていくための根源である母乳が出ているかどうかです。量はともかくとして授乳は確認することが出来ました。しかしそれもつかの間、ある程度予想はしていましたが、日に日に仔の体力がなくなって来ているのが目に見えて分かるようになってきました。目も虚ろで元気もなく、挨拶も交わしてくれず母親に掴まっているのがやっとという感じです。母親の元に戻して11日後の12月7日、これ以上は命の危険があると判断し再度取り上げることを決めました。体力の消耗が著しく低体温状態になっていて、本当にギリギリのところでした。輸液やビタミン剤など施せる治療をした結果、徐々に顔色も良くなり体温も平熱近くまで回復しました。しかし、ミルクへの移行がなかなかうまくいかず、飲ませては下痢になるの繰り返しで量も増えませんでした。自力での授乳が困難な時は、注射器にミルクを入れ少しずつ口の中に入れて飲ませることもありました。2週間くらい同じような状態が続きましたが、徐々に慣れてきたのか、ミルクを一気に飲む時も出て1日の量も増えてきました。体力も回復し腕に力強さが出て表情にも変化が見て取れるようになってきました。座ったり、立ち上がる練習をするまでになりました。
 年明けの1月4日再度足の状態を確認するためレントゲン撮影し、完全に骨が接合したことが確認出来ました。1月7日、足に挿入したピンを抜きましたがそこからが長い道のりであるリハビリが始まります。違和感があるものが取り除かれ自由になった足を少しは使ってくれることを期待していましたが、やはりそう簡単にはいきません。しかし、こればかりは自分自身で何とかしてもらわないと困ります。それでも不自由さが見える中でも動きが激しくなり保育器内では手狭になってきたため大きなケージに移すことにしました。初めは緊張して固まっていましたが、慣れて来るとケージに手を掛け立ち上がろうとしてくれました。運動量が増した関係で、ミルクはほとんど一気飲み。足りないのか口をパクパクさせて催促するほどでした。歯も生え体重も増したので、ミルク以外に少しずつ離乳を進めていくためのバナナやリンゴを与え口に馴れさせました。ことのほか抵抗なく食べてくれて安心しました。今ではバナナは丸ごと1本完食です。
P3に続く・・・

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