でっきぶらし(News Paper)

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241号(2018年04月)5ページ

アザラシのお肌事情 ~めざせ美肌~

 当園には哺乳類、鳥類、爬虫類などさまざまな動物たちが暮らしていますが、今回はその中で唯一、水の中を主な生活の場とするアザラシのお話です。
 アザラシといえば、円筒水槽のなかをスーッと上がっていく(個体によってはほんとに天にのぼって行くんじゃないかと思うほどの)姿が印象的ですが、ある日いつものように獣医師がそんなアザラシたちを観察していた時、ふと異変に気付きました。「あれ?ソラくんの肌が・・・」そうです。気づかれた方もいらっしゃるかと思いますが、オスのソラくんのお肌が荒れていたのです。自慢のうしろビレや腹ビレの毛がしょぼしょぼになり抜けてしまい、地肌が見えているところもありました。よく見ると目の周りなども赤くなっているようです。
 こういったお肌の病気の場合、皮膚をセロテープでペタペタして、セロテープについたものから雑菌やカビ、寄生虫がいないかを調べたり、カビを強く疑う時は毛を少しだけ抜いて、カビ用の培地(寒天のようなもの)に植えて培養してみたりと、いろいろな検査を行っていくのですが、今回は一つ問題が。
 どうやって検査しよう・・・。
先ほどお話しした通り、彼らが普段いるのは水中なのです。獣医が検査道具を持って水に潜る。いや、潜って検査しても水の中ではセロテープは貼りつかないし、水中戦でかれらのスピードに敵うはずがない。それに危ないし。と考えあぐねていたところ、そうだ!3時のトレーニングがあった!と思いつきました。
 アザラシたちは、毎日3時に飼育員さんが夕飯をあげながら鼻先タッチなどのトレーニングを行っています。(イベントとして行っており、お客さんからアザラシたちへ魚をあげることもできます。)この時はごはんをもらうためにアザラシたちは陸上に上がってくるのです。かくして、担当飼育員には事前にお話をし、トレーニングの時間に獣医師2人で検査に臨みました。ソラくんが白い棒のようなもの(ターゲットといいます)に鼻先をタッチしてじっとしている時を狙い、セロテープをペタッ。ブンッ(ヒレを振る)ペタッ。ブンブンッ。
 うーん、ぜんぜんじっとしてくれません。なんとかセロテープに検査材料を取り、雑菌、カビ、寄生虫と検査をしてみましたが、残念ながら何も出ませんでした。見た目からはカビを疑う状態ですが、まずは簡単に駆除できる雑菌の感染を除外してみよう、と抗生物質を試してみました。その結果2週間試してもお肌は変わらず、むしろやや範囲が広がった気もします。そこで、いよいよ一番に疑うカビの治療に入りました。といっても抗カビ剤の内服は副作用もあるためひとまず置いておき、まずはスプレー式の外用薬から始めようということに。しかし、ここでまたまた問題が。
 スプレーしてすぐ水に入られたら、治療の効果出ないんじゃ・・・?
そうです。彼らが普段いるのは水中なのです(2回目)。薬を患部にシュッとした後に水に入られてしまったら、すべては水に流れてしまうのです。この問題を何とかしようと獣医師がうんうん考えた結果、ハチミツを塗ることとなりました。ハチミツはもともと薬として使用されるほど抗菌作用があり、実は最近イルカの皮膚炎がハチミツで治癒したとの情報も聞いていたため、スプレーした上からのコーティング剤、兼薬の補助剤として使用することとなったのです。またまたトレーニングの時間にお邪魔し、抗カビ薬スプレーとハチミツを使用してみたところ、ややイヤがるそぶりはあるものの、無事に処置することができました。その後約1か月にわたり毎日足しげく獣医師が治療に通いましたが、残念ながらこれといった効果は出ず、その後アレルギー反応をやわらげる抗ヒスタミン剤も使用しましたが、明確な効果は得られませんでした。
 本人は気にする様子もなく、痒みなどもでていないようですが、このままではさらに悪化しかねません。そこで、カビは検査にあらわれないこともあるため、現在ソラくんは少量の抗カビ薬を内服しています。今後効果が出てくれれば、少しずつ、副作用が出ないように気を付けながら薬を増やしながら治療していく予定です。
たかがお肌、されどお肌。ソラくんのツヤツヤお肌の復活を願いながら、獣医師は今日もソラくんのお肌を観察するのでした。
(太田 智)

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