でっきぶらし(News Paper)

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248号(2019年06月)4ページ

初めまして!ジャガーの女の子

 3月26日にジャガーのメスが来園しました。動物園を応援したい、という皆様の思いが募ったクラウドファンディングで、南アフリカの動物園から迎えたかわいい女の子です。  
 来園当日は夜10時半に到着予定でしたので、一度帰宅してからジャガーの飼育担当者と2名の獣医師で園内の動物病院に夜集合し、暗闇の中到着を待ちました。「ブルルルル・・・」「あっ、来た!」期待に胸を膨らませ、車の中の箱を覗くも「黒くて見えない・・・」。そう、やってきたのは通称ブラックジャガーと呼ばれる黒変種(全身が黒色)。夜空の下で見ても、暗くて黒くてさすがに見えません。取り急ぎ、病院の検疫室に運び、輸送箱ごと重さを測ります。「・・・えっ、軽すぎない?」
 実はまだ5か月令の女の子でした。最初に出す予定だった個体が体調不良になってしまったため、手続きの時点でこの子に代わったとのことでした。現場サイドではそれを知らず3歳以下の個体が来ると聞いていました。「5か月令らしいよ」と発覚したのがなんと2日前。「そんな小さい子を出すなんてほんとかなあ?」半信半疑で輸送箱のまさしく「フタ」を開けてみると、「・・・ちっちゃい。」園長も心配して見に来てくれました。「うわあ、子供だなあ」大きさは中型犬くらいです。
 動物園に新しい動物が来園すると、公開までに少し時間がかかります。なぜかというと、「検疫(けんえき)」を行うからです。皆さんも海外旅行から帰ってくると、空港の検疫所を通りますよね。動物も同じで、輸送や新しい環境下でストレスを受けて病気を発症してしまうことがあるため、一定期間他の動物との接触を避けて動物病院にある「検疫室」で様子を観察したり、うんちや血液等の検査を行ったりして健康状態を確認します。今回は海外からの長旅であったことと、まだ子供なので精神面のケアも考慮し、しばらく病院の静かな環境で落ち着くまで過ごしてもらいながら、様子を観察することにしました。
 さて、そんなジャガーちゃん。輸送箱の中から部屋に出そうとしましたが、・・・出ません。うなり声や手の素早い動きは、子供といえども「さすがジャガー」の迫力です。もうすぐ日を超える頃まで粘ってみましたがダメ。飛行機や車での長時間の移動、そして箱が開いたと思ったら見ず知らずの場所で周りには聞いたこともない日本語を話す人たち・・・さぞ怖かったことでしょう。輸送箱から新しい環境の部屋に一歩踏み出すには勇気がいることなので、ジャガーちゃんに任せて一晩箱ごと部屋に置いて帰りました。
 翌朝、箱から出ていたジャガーちゃん。部屋の隅でじっとして、人が来るとシャーシャー言います。落ち着くまでは入室を最小限の回数にしました。検疫が明けるまでは、病院担当の獣医師しか検疫室に入りません。餌は人がいないときに食べていましたが、部屋の隅から2日間動かないので、環境になじめるよう、そして自分で居場所を選べるように、部屋と部屋をつなぐ通路として利用しているスクイズ(動物の治療をしたりするときに使う檻)にベニヤ板を敷いて、開放しておくことにしました。その日の午後、部屋をそーっと覗くと、板の上に伏せていて、人の気配に気づくと奥の部屋に移動したのです。床より板の方が好きそうなので、覗いてスクイズにいるたびに「えらいね~」「いい子だねぇ」と声をかけるようにしました。
 そのうちドアを開けるとこちらを見て逃げなくなり、表情が変わってきました。夕方、最終の確認をして「また明日ね、おやすみ」と言ってドアを閉めて灯りを消すと、しばらくして今までとは違う鳴き声で「アオウ、アオウ」と鳴いています。「寂しいよねぇ」検疫室に戻ってスクイズの前でジャガーちゃんと日本語、時々カタコト英語で話していると、遊んでほしそうな雰囲気に。「そうだ、猫じゃらし!」ちょうどエサ入れの掃除に使っている水切りの柄が長さ50cm位、赤色、先に引っ掛ける紐が付いているものだったので「これこれ」とばかりジャガーちゃんの目の前でユラユラ振ってみました。するとどうでしょう、目で動きを追い始め、そのうちちょんちょんと手を出して(爪を出さないで触れる感じがかわいい)くれました。「検疫室生活の良い気分転換になりそう」
 それ以来、部屋に入ると最初はじっとしているものの、目は期待して「遊んで!」というオーラを出しているので、水切りで追いかけっこをして遊びました(仕事ですよ)。右へ左へと俊敏に動くので、「もしかして、ターゲットできるかも?」ジャガーの先輩、未来の花婿の小助くんは、時々飼育担当者がターゲット(的)トレーニングで爪切りをしています。(次ページに続く)

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