でっきぶらし(News Paper)

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249号(2019年08月)3ページ

サイチョウの変な話

当園には、オス・メス計2羽のサイチョウ(鳥)がいます。熱帯鳥類館にいる2羽の仲は、特別良い訳でも悪い訳でもなく、まあ…普通としか表現できない関係ですが、近頃、メスが奇妙な行動をとる様になってきました。ある日の事、私がいつもの様にサイチョウの収容ブースで作業をしている時、メスがまじまじと私を見ているのに気が付きました。彼女は部屋の地面から私を見上げています。

何だろう?と思った私は、足元近くにいる彼女の前に無意識にしゃがみ込んでいました。すると、このメスは口を少し開いたり閉じたりした後、何かを吐き戻し嘴の先端に咥え、私に差し出してきたのです。それは餌の一部である煮イモでした。彼女は明らかに私に、その煮イモを「食べて!」または「あげる!」という意思表示をしていたのです。私は思わず「はい?」と首を傾げてしまいました。通常、この行動は同種の異性かヒナに向けて行われる給餌行動なのですが、私はサイチョウのオスでもヒナでもないので、この行動には正直、当惑しました。しかし、「はい、どうぞ!」というアプローチをしている物を受け取らないのも何でしたので一応、指先でありがたく?頂戴しました。と言っても流石にこれは食べられません。困った私はその煮イモを再び彼女に差し出すと、このサイチョウのメスはそれを一度受け取り、また私に差し出してきたのです。このやりとりは、煮イモがボロボロになるまで延々と繰り返されました。その日から、この関係は親密さを増し?毎日ではありませんがかなり頻繁に彼女はせっせと私に餌を分けてくれる様になりました。(ちなみに、彼女にはナナミと言う名前が付けられています)

 やがて…時が過ぎ、今ではナナミさんは私が指差すと、餌が入っているステンレス容器から直接色々な餌を咥え出し、まるで「どうぞ」と言わんばかりに差し出し始め、更に清掃作業の為に私が収容ブースに入ると餌容器が乗っている餌台の周辺に散らかっているバナナやリンゴ・パンやオレンジを拾い、私に持ってくる行動さえ見せる様になりました。結果論で表現すれば(本当に結果論ですが)ナナミさんは清掃・お掃除を手伝ってくれるのです。もちろん、彼女にお掃除の手伝いをしているという自覚があるはずがないのですが、ひとつだけどう考えても判らない事があります。

このサイチョウのメスの行動……まったく彼女のメリットにならないどころか、むしろナナミさんにとって労力にしかならないのに、熱心にせっせと繰り返しているからです。私の方は、遠くに散らかってしまった物をわざわざ持って来てくれるので、ほんの少し助かっているのですが。

 今日もナナミさんは、吐き戻した餌や餌容器の中の色々な物を私にくれ、清掃を手伝ってくれました。
人間に食べ物を分け与え、掃除の手伝いをする【鳥】。嘘みたいな話ですが、本当の話です。奇妙で変な話ですが…。

長谷川 裕

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