252号(2020年02月)2ページ
同居の状態は?戻せるのかな?
今回はチンパンジーげんき君の現状と今後について話したいと思います。大怪我を負ってしまった足は完治し心配がないことをまずご報告します。至しかたなく人工哺育に切り替えましたが、やはり今後チンパンジーとして生きていくためには母親や仲間達のところに戻すのが優先事項と考え、少しずつ時間を作って戻していこうと決めました。平成31年3月31日、寝室の2部屋を使って母親のコニーとの再同居を試みました。コニーはげんきの部屋に入室後すぐに抱き寄せようとしましたが、げんきがびっくりして鳴き出してしまいます。コニーは無理せず一定の距離を保ちながら、げんきの気持ちを落ち着かせようと必死になっているように見えました。入退出を繰り返したり、寝室で大の字に横になったりと試行錯誤しながらの初日30分でしたが上々の再スタートが切れたと思いました。しばらくは同じような感じの同居を繰り返していましたが、再同居開始から14日目にコニーが入室してきても、げんきは1度も鳴き声をあげませんでした。コニーがイライラしてあちこち叩いても動揺することなく気持ちに少し余裕が出てきているように感じられました。自分なりに距離感を掴み、安心安全でいられるポジションを感じ取ったようです。しかし、再同居開始から1ヶ月が過ぎた頃からコニーの方に飽きが見られるようになりました。入室してもすぐに通路に出てしまいそのままだったり、イライラをげんきにぶつけて脅かしてみたりと、コニーとしては現状を打破しようと努力しているのにも関わらず何も変わらない現状に気持ちが切れかかっているように感じられました。このままでは同居自体の意味がなくなってしまうと思い、再同居開始2ヶ月目に変化を入れようと思いきってげんきの寝室のみで行うようにしました。最近のコニーの様子から考えると少し不安はありました。寝室自体2頭を入舎させるにはそう広いものではないので掴まえられたり、噛みつかれたりと万が一のことも考えました。コニーが動き回るとげんきは必死に逃げ回るという流れを繰り返し、たまに体が触れると大声で鳴き出していました。お互いの距離が近くなったことで、げんきからちょっかいも出しやすくなり、機敏に動いて追いかけるような素振りをしたり、手で払い避けるような仕草も見られました。再同居開始約4ヶ月目頃から同居の状態に変化が出てきて、至近距離になり時々お互い声を出して挨拶的な行動が見られました。げんき自身も今まで床のみを動き回っていましたが、コニーが寝室の台上にいても平気で上って行きました。また、コニーの素早い動きにも機敏に反応出来るようになってきました。慣れからか逆にコニーを追い立てるように動き、少し強気な気持ちが出てきました。しかし、あまりしつこくしていると、コニーに逆に詰め寄られ大人しくなることもあり、勢い余って階段から落ちることもたまにありました。これにはさすがにコニーも心配そうに様子を覗き込んでいました。放飼場での同居も試みてみようとなり何度かチャレンジしてみましたが、怖がって飼育担当にしがみつき離れようとしません。半ば強引に振りほどき同居。状況がいつもと違うため、しきりに鳴き飼育担当に助けを求めます。一方のコニーは関心がないのか、いつも通りでほとんど反応を見せませんでした。放飼場での同居はあまり進展が見られそうもないので寝室での同居を重点に置くこととしました。日々段々とげんきは寝室内だと態度が生意気になり、自ら近寄って行き様子を伺ったり、コニーの反応がないことをいいことに叩こうとしたり、飛びかかろうとするなど行動が激しくなることもあります。その際もコニーは大人の対応をし、気にせず好きにさせています。そんな様子を確認した時は少し期待が持てるのかと思ってしまいました。でもそう長くは続かず、コニーの最近の傾向は手で払ったり、追い詰めたりするような行動が多々見られるようになってきているため、げんきは逃げ回ることに終始している状態です。人工哺育では群れの中で生きていくための規律や上下関係など必要なことを教えてあげられません。もしかしたら、近い将来自分の群れを作りリーダーとして仲間を統率していかなければならず苦労することになるかもしれません。親子として受け入れてもらえなくても、せめて仲間として受け入れてくれればげんきの今後は明るいものになるかもしれません。なかなか思うようには進まないですが同居のスタイルを試行錯誤しながら根気強く続けていければと思います。
(佐野彰彦)