でっきぶらし(News Paper)

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254号(2020年06月)8ページ

病院だより 仁義なき陸上戦(その2)

 そして最後、ソウヤくんに取り掛かろうかというところでアクシデントが・・・。最初に処置したソラの右後ろヒレに、ソウヤが噛みついたのです。アザラシの牙は意外と鋭く、ソラのヒレには穴が開き、動脈を傷つけたのか出血量も多い。発見した瞬間、全員の顔から血の気が引きましたが、驚いている場合ではありません。すぐさまソラを押さえこみ、止血処置に入ります。圧迫して止まる出血ではないので、なんとか出血した場所を探し出し、縫合用の糸で縫わなければなりません。プールの底に残った水が出血で赤くなっていく中、なんとか出血点を探し出し、糸で結紮し、止血に成功した時にはスタッフ全員ぐったりとしていました。でも一番大変だったのはソラだよね、本当にお疲れさま。ちなみにその後、抗生物質を魚に仕込み飲んだおかげで、ソラのヒレは元通りに。元気も食欲も戻り、血液検査で軽度の異常はあったものの、健康と言ってよい結果でした。やせていた体も元に戻り、春の毛の生え変わりも無事に済んでいます。本当に良かった・・・。今だから言えますが、けっこうな出血だったので、止血した後の2~3日は冷や汗で生きた心地しなかったですからね。残ったソウヤですが、ソラの傷の処置に時間がかかりすぎてしまったことと、噛みついて興奮して危険なこともあり、当日の処置は見送ることにしました。もう噛みつかないようお願いしたいですね。今後は処置時にアザラシ同士のトラブルが起こらないよう、計画も立て直さなければなりません。最後にスタッフ総出で、ぐったりした体にムチ打って撤収作業です。モノを置き忘れると水中に沈むので回収できないですし、アザラシが飲み込んでしまうかもしれないので、隅々まで忘れ物やゴミがないかを確認してから片付けます。今回も片付けが終わったのはお昼を大幅に過ぎたころでした。
 爪切り以外の処置(採血やできものを取る)は実はアザラシでは初めての試みだったのですが、2つとも成功しているので獣医としては嬉しい限りです。ソラが噛まれるアクシデント以外は、成功といって良いのではないでしょうか。こうして一つずつ、治療の幅を増やしていけると、動物たちの健康を守る手段も増えていきます。これからも精進していきたですね。でもアザラシはやっぱりこわい。

(太田 智)

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