でっきぶらし(News Paper)

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258号(2021年02月)7ページ

動物たちとの知恵比べ

 私が私が子どものころは、獣医さんなんてマイナーな職業を知っている人はほぼいなかった気がします。ところが最近は、小学校の教科書で獣医さんに関する文章が掲載されたこともあってか、多くの子どもたちが、動物園で獣医さんという動物のお医者さんが働いていることを知っています。園内を歩いていると、子どもたちに「獣医さんですか?」と声をかけられることもあります。時代も変わったものです。

 さて今日は、教科書の獣医さんのお話でも出てくる動物と人間(獣医と飼育員の連合チーム)の知恵比べの日々を綴ってみたいと思います。動物園の動物たちも、皆さんと同じように日々の生活の中で、怪我をしたり、病気になったりすることがあります。そして、怪我や病気になったらお医者さん(動物の場合は獣医さん)が検査をして薬を処方します。この後、人間なら嫌々ながらもお医者さんに言われたとおり薬を飲みますが、動物はそうはいきません。苦い薬や普段食べないものは警戒して食べないことがしょっちゅうあります。最後の手段として注射薬という手もありますが、動物も人間も負担が大きいので、なるべく餌と一緒に食べてほしいのです。固形の薬がいいのか、粉薬がいいのか、味は、匂いは、どれを使おうか・・・。

 さぁ、ここからが知恵比べの始まりです。
エントリーナンバー1:初級編のヤギの場合。ヤギ達は日常的にペレットというドッグフードのような美味しい栄養食を与えています。このペレットに固形の薬を紛れ込ませて与えると、ペロリと食べてくれます。なんていい子たち!!

エントリーナンバー2:中級編のペンギンの場合。ペンギン達は餌の魚を丸呑みにする習性があります。そこで、魚の中に薬を詰め込んで与えれば、本人たちが知らない間にお薬が体の中に入ってしまいます。ペンギンの他にも、薬自体が見えないように大好物の肉や甘い煮イモ、バナナなどに挟めば食べてくれる動物たちもいます。ほんの少しの工夫が大事!ということで、これなら動物も人間も負担が少ないです。

エントリーナンバー3:上級編のシシオザルの場合。ご存じの通り、サルたちはとても賢いです。特に、当園のシシオザルのルキというオスの個体(現在、投薬治療のため動物病院で暮らしています)は特に警戒心が強く賢いので、この原稿を書いている最中も知恵比べの真っ只中にいます。まずルキの場合、捕まえたり、自分に嫌なことをした人は覚えているので、その人からは餌を受け取らないか、受け取ってもすぐには口に入れません。そして、優しい飼育員さんからもらった餌でも、しっかり匂いを嗅ぎ、ブドウや煮イモ、バナナに怪しい裂け目はないか、粉末が付いていないか、じっくり観察します。バナナからハチミツの匂いがするのも人工的なのでアウトだそうです。ですから、煮イモ団子など怪しいものはこの時点でルキに捨てられてしまいます(泣)。もちろん、ブドウや煮イモ、バナナの皮はどんなに薄くてもしっかりむき、おちょぼ口で少しずつ食べます。さらに不安であれば、固形の薬が入っていないか確認のため、エサ台にこすり付けて内容物を確認する慎重さです。そこまでの試験に突破できたものだけが、ルキ様のお口に入ることができるのです。また、ある日突破できたとしても、次の日は食べなかったりするので気が抜けません。今のところはプルーンに粉薬を入れる方法が一番いいようですが、今後もルキを始めとする動物たちとの知恵比べは続きそうです。

(山口 真澄)

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