でっきぶらし(News Paper)

一覧へ戻る

« 260号の2ページへ260号の4ページへ »

260号(2021年06月)3ページ

かしこいビビちゃんといばりんぼうのジェフくん

 この話は次にでっきぶらしの執筆を頼まれたら書こうと思っていた話です。書きたいと思ってから随分と経ってしまいましたが、今回はジェフロイクモザルのジェフと今は亡きビビの話をしたいと思います。

 クモザルはフライングメガドームの池に浮かんでいる島の上で生活しています。池の上なので掃除の時は船で行きますが、餌の時は陸地から島に向かって餌を投げて与えます。効率よく広範囲に餌をまくことでクモザルたちの餌をめぐるケンカを防ぐことができます。野生下ではほとんど樹上で生活するといわれているクモザルですが、日本平動物園では人間みたいに2本足で立ちながら空いた両手で草をかき分けつつ餌を探します。 

 当時、私がお世話をしていたクモザルはオスのジェフとメスのビビです。ジェフがほとんど茶色なのに対し、ビビは真っ黒なので一目でどちらか分かります。ビビの方が年上ですがジェフは力が強いので、餌の数が少ないとビビに大声で怒鳴りながら向かっていき、地面のそばから追い出して餌を独り占めしてしまいます。そのため餌は細かく切り、島のあちこちにまくことでビビも十分に餌を食べられるようにしていました。餌の中でも一番気をつけていたのがゆで卵です。クモザルの餌は果物やお野菜ばかりですが、唯一のタンパク源としてゆで卵を毎日2頭で1コあげています。ゆで卵だけ栄養が違うので毎日食べて欲しいのですが、遠くから投げ入れる餌の与え方ですと、それぞれに半分ずつあげるというのがなかなか難しいのです。2頭ともゆで卵が好きなので、それぞれの足元にゆで卵を着地させないとビビがジェフにゆで卵を盗られてしまいます。投げる時も、卵の白身側が地面に着くように投げないと、黄身がバラバラになって食べられなくなってしまいます。投げる力が強すぎても黄身がバラバラになるため、絶妙なコントロールが必要です。難しいのですが、毎日やっていれば慣れるもので、ジェフの足元にゆで卵を投げたら次はビビと言う流れが段々とできてきました。かしこいビビは、ジェフがゆで卵をもらうと、『次は、わたしね』とこちらを見ながら待ってくれるようになり、確実に2頭に卵をあげられるようになりました。

 さて、ある日のこと、煮芋を切るのを忘れてそのままクモザル島まで持っていってしまったことがありました。煮芋はやわらかいので、手で半分に折ることは出来るのですが、細かくすることはできません。お芋1本まるまる全てをジェフに食べられたら、ビビがかわいそうです。そのため、ゆで卵で鍛えたコントロールで、それぞれの近くに煮芋を投げ2頭に平等に行き渡るようにしました。煮芋はゆで卵と違って重いので、体に当たらないように少し離れたところに投げます。周囲をよく見ているビビはすぐに煮芋に気づきました。しかし、ジェフは近くに落ちている煮芋を全く見つけられません。そのことに気づいたビビは、静かにジェフの近くに行きジェフの煮芋も手に入れてしまいました!2つの大きな煮芋を手に入れたビビはジェフのことを何度も振り返り確認しながら、上の方にスルスルと上がっていきます。ジェフはいつもと違うビビの動きに全く気づきません。ビビはジェフから一番遠い高いところに逃げたら、しっぽと後ろ足で上手に柱につかまり、宙吊りになってジェフを監視しながらゆっくりと煮芋を食べ始めます。この間、ジェフは地面にたくさん散らばっている小さい餌を探すのに夢中で一度も顔を上げなかったので、ビビの様子に気づきませんでした。

 いつも威張り散らしているけれども間抜けなところが多いジェフと、ジェフを刺激しないように上手に立ち回りながらおいしい餌を手に入れるかしこいビビ。2頭の性格がよく分かる出来事でした。ジェフがかわいそう?ジェフは毎日ビビよりもたくさん食べていたので大丈夫ですよ。    
                           
(中村 あゆみ)

« 260号の2ページへ260号の4ページへ »

一覧へ戻る

ページの先頭へ