でっきぶらし(News Paper)

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263号(2021年12月)10ページ

病院だより

 みなさん、こんにちは。春に広島からやってきました動物病院係の新人飼育員です。春から働き始め、あっという間に約半年が経ち、何度か実習生の担当をさせていただいたことで学生の頃が懐かしく感じます。私も様々なところで実習をさせて頂いたことがあるのでちょっとした思い出話を一つしようかと思います。

 それは初めてとある動物園へ実習に行った時の話です。そこではある動物の広い放飼場の掃除を1人任されました。一通りの説明を受けた後「じゃあ、ここは任せるから‼」と手を振って去っていく担当の方を見送りました。実際に憧れていた飼育員の仕事ができることに喜び、デッキブラシとホースを両手にやる気満々で掃除に取り掛かりました。その最中、放飼場で暮らしている動物たちはみんな自由で伸び伸びとしていて、飼育員になるとこんなにも近くで動物たちの姿や様々な表情や行動を見ることができるのだと感動したことをよく覚えています。

 しかし、その感動の中、嫌なモノに気づいてしまいました。それはこの広い放飼場を散歩している黒い生命体、頭文字G…。今までにこんなにも多くの大きなGを見たことがなかった私は心の中で大絶叫しました。あんなにも鳥肌がたったのは今までになかったと思います。突如現れ、散歩をし始めるGを無我夢中で水でぴゅーんと遠くへ吹き飛ばし、汚れをデッキブラシで必死に落とすことを繰り返し、やっとの思いで無事に掃除を終えた頃に担当の方が帰って来ました。担当の方は放飼場を見て一言「いい感じだね‼いいタイム、いいタイム‼最高だよ‼HAHAHA ‼」と眩しい笑顔を頂きました。

 『飼育員は動物が好きだからといってすべてが好きなことだけではない』と改めて思い知る良い体験でした。そんな体験のほかにも、生後0日の大型動物の赤ちゃんに会うという貴重な体験もあり、動物園とは何かを考える良い機会になった新人ならではの思い出の実習話でした。

 さて、ここから動物病院で生活している動物を紹介したいと思います。私のいる動物病院には病気や怪我で治療中の動物もいますが、高齢になったため静かにのんびりと隠居生活を送るために病院で暮らしている動物もいます。
今回は動物病院で隠居生活を満喫しているシシオザルの『ペペ』の紹介をしようと思います。

 ペペはお茶目でチャーミングな国内最高齢(現在36歳)のシシオザルのおじいちゃんです。そんなペペの病院での一日の楽しみはリンゴから始まります。朝、外部屋にリンゴを置くと扉が開いた瞬間、一目散にリンゴ目掛けて飛び出していき、すぐに完食してしまいます。その後、日中は隣でペペ同様、隠居生活を送っているみんなのアイドル、マンドリルの『マロン』に目が釘付けです。遠くから見つめてみたり、近くにマロンがいればちょっと手を伸ばしてみたりとマロンにかまって欲しいのが遠くから見ていてよくわかります。それほどペペの視線はお熱いのです。しかし、マロンはアピールをしているペペではなく、隣の部屋で爆睡中のレッサーパンダのタクに夢中で視線を送っています。いつかペペのアピールにマロンが応えてくれるといいなと思います。そしてペペの一日の終わりの楽しみは、バナナかプルーンです。バナナかプルーンを夕方にもらうと明らかに目を輝かせ「キャッキャッ」と喜ぶように甲高く鳴いて嬉しそうに食べます。それも一口で…。ペペの一日の楽しみはどうやら食に始まり、食で終わるようです。

 そしてどれだけペペが食を楽しみにしていて執着しているのか分かる出来事がこの夏にありました。その日も夕方に寝室となる中部屋の掃除を終えて夕飯を置こうとしているときでした。天気が悪くいつもより室内が暗い中、急に背後から「ドンッ‼」とモノがぶつかる様な、モノを殴るような音がしました。ペペが高いところから落ちたのかもしれないと焦って外部屋が見える窓から様子を見ようと振り返りました。するとその窓にペペが両手をつき、顔を張り付けて中の様子を見ていたのです。しかも私が手に持っている夕飯の入った袋をガン見していました。あの日はペペに心底驚かされました。それだけペペは食に目がないのです。そんなご飯が大好きなお茶目なペペが毎日元気に過ごせるよう、これからも精一杯サポートしていきたいと思います。

(土井 千乃)

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