でっきぶらし(News Paper)

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269号(2022年12月)7ページ

病院だより 「約22年の大往生」

 はじめまして!春から動物病院の担当になった新人飼育員です。さかのぼること昨年度末「4月からあなたは病院の担当ですよ」と連絡がきて「病院の子たちの面倒を見るなんて、そんな責任私に負えるかしら…」と不安な春を迎えました。個性の強すぎる動物たちに振り回されながら、あっという間に8ヶ月。少しは私の仕事が動物たちに認めてもらえてきた頃でしょうか?動物病院には体調を崩したり、怪我をしたりして治療のために入院している動物以外にも、人工哺育の赤ちゃんや高齢で老後をのんびり過ごすためにやってきた動物などがいます。今回は私が初めて最期を看取らせてもらったサルについてのお話です。

当園には立派な黒いあごひげに見事なセンター分けのふさふさ頭が特徴的なワイルドでかっこいいヒゲサキというサルがいます。ヒゲサキのジャワ(♂)はパートナーのキーマ(♀)とともにやってきて国内で初めて繁殖に成功し、たくさんの子宝に恵まれた父サルです。4月の時点で目が見えにくく、足腰も弱っていましたが、大好きな餌を見つければ、よく動き、よく食べるおじいちゃんでした。しかしだんだん力が弱くなり、最後のひと月ほどは、ほぼ寝たきりの生活で床ずれとの戦いでした。右の腰がよくなったかと思えば左、左が少し良くなったかと思えば今度は右が酷くなる…の繰り返し。これ以上悪化しないよう腰にテーピングを巻いたり、床ずれ防止マットレスを敷いたり、餌で汚れた顔や手足を蒸しタオルで拭き取ったりと、できることはとにかく何でもやりました。しかしジャワは動けなくなってからも、食べることだけは全力でした。テーピング交換をする時はリンゴスティック片手にモグモグ。体を少し支えるだけでこんなのんきに食べながら、テーピング交換させてくれる子はジャワ以外にいません。

しかし、亡くなる1週間ほど前には大好きな餌を自力で食べることが難しくなってしまいました。数日間で急激に衰弱したので、獣医師と相談し、最期は食べたいものが少しでも食べられるようにしてあげよう、ということになりました。いつか来るとは分かっていたもののやっぱりお別れは悲しいものです。それでも最後まで懸命に生きようとしているジャワを見ていると、溢れそうな涙はすっとどこかへ消えていきました。

私にできるのはジャワが最期まで穏やかに過ごせるように全力でサポートすることです。毎朝、入院室の窓からジャワの部屋をみて「今日も生きている…」とほっとするところから始まります。食べたいという意思がある時はリンゴやバナナをすりつぶした特製ジュースを少しずつ与えました。次第に寝ている時間が増え、お別れの日が近いことを感じました。8月11日、昼前に握手をして「じゃあ、また後でね」と声をかけたのが最後の挨拶になりました。眠るように息を引き取りました。一緒に過ごしたのは半年にも満たなかったですが私に生きること、一生を終えること、そこに関わっていくことの難しさや尊さを考えさせてくれました。きっとド新人の私に『そうじゃない』と思うこともありながら、相手をしてくれたことでしょう。何物にも代え難いこの経験を忘れずに、これからも病院にいる動物たちが快適に過ごせるように全力でサポートしていきたいと思います。来園してから16年、長い間お疲れ様でした。そしてありがとう!

日本平動物園ではジャワの息子たちのクミンとチャパティが展示場で皆さんをお待ちしています。ジャワ、まだまだ健在なキーマと子どもたちを天国から見守っていてね。

(吉本 由夏)

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