でっきぶらし(News Paper)

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133号(2000年01月)18ページ

クモザル騒動記

 下の池にポツンと小さな島があり、ここにクモザルの若夫婦が住んでいます。最近、このオスの方が給餌や清掃の為に島に上陸する担当者や代番の私に対し、威嚇の声を出したり時には手や口を使い攻撃してくるようになりました。  これには様々なことが考えられます。この島で生まれ育ち、それが縄張り意識を強くさせもしたのでしょう。
 
 子供の頃より飼育係と接し可愛がられてヒトの恐さを知らずに育ったのは、最たる要因かもしれません。成長し交尾能力を有すると、オスとしての自信が更に加速させたようです。 向かってくる時の恐さは、同程度の大きさのサルと比べても一段上をいきます。地面 をはうようにして進み攻撃してくる姿は大きなクモそのもので、名前の由来をいやでも思い知らされます。

 虫のクモが大嫌いな私にとってはなおのこと恐さが募り、ボートをこぎ島に近づくと気が重くなります。最近では好物の落花生と干しブドウを島にばらまき注意をそらして、その間に餌をおき水替えを済ませ早々に島を後にしていました。
 しかしこれではいけないと、島の中の小屋と餌台を改造することに。業者が測量 にきましたが、ひとりでは無理です。

  担当者と私がついて三人で島へ上陸したところ、オスは一目散に逃げ去ってしまいました。島の隅に入り込み、今にも池の中に落ちんばかりの格好で木の根本にしがみついて、声を殺して小さくなっていました。
  三人でしかも知らない人が混じっていては、さすがにいつもの気の強さは影をひそめてしまったようです。おかげで測量 はスムースに進行し、何事もなく終えることができました。
  通常は気が強いオスですが、島に上陸しない限りそばを通れば、必ず取りがさえずるような声であいさつしてくれます。島のいちばん高いところに登れば、遠く離れたところにある私が出入りする類人猿舎の入口が見えますが、そこを通 る度ごとにもあいさつの呼びかけをしてくれます。

  危険な面とは裏腹にしんな可愛い一面も持っていて、案外ニクめないヤツでもあるのです。

  (池ヶ谷 正志)

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