でっきぶらし(News Paper)

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107号(1995年09月)9ページ

動物病院だより

 山々が、黄色や赤色に彩られ、日増しに風が冷たく感じられるようになった今日この頃ですが、お元気でいらっしゃいますか。
 今年は春から夏にかけ、久しぶりにベビーラッシュとなり、なんとなくウキウキした気分でいました。そしてこのまま順調にいってほしいと願っていました。
 ところが、夏の猛暑がどうやら峠を越え、しのぎやすくなり始めた頃から、体調に異変をおこす動物があちらこちらでで始めたのです。
 まずはニホンツキノワグマの月太でした。月太は、この二〜三年前から冬になると、後肢の跛行が目立つようになり、放飼場でも、ほとんど動かず、ボーとしていることが多かったのです。
 今年の暑い最中、じーっとしていた為夕方、入舎しようにも呼吸が荒くて動けず、やっとの思いで寝室に入ってきたのです。
 当初は、この暑さで、日射病になってしまったのだろうと考え、翌日からは、寝室に入れたままで、風通しを良くしてやったところ、呼吸も落ちついて、食欲ももどってきました。
 そうこうして九月に入り、放飼場に出せるかと思っていた矢先、担当の小池飼育課員より「月太のおなかが、ポッテリしていて、呼吸もはやいよ」と連絡が入り、そうじで、移動させる頃を見計らってクマ舎に行き、月太の様子をみました。確かに、腰の状態と比較しお腹が目立つ気がしました。
 月太は、今年で26才。ツキノワグマの長寿記録は33才となっていましたから、月太もがんばっていたのです。
 麻酔をかけ、原因を探ろうか考えました。しかし、このところの月太の様子は、目にみえて衰えており、麻酔のショックの危険性が充分考えられたので、とりあえず、好む餌の中に薬を入れ、対症療法を試みることにしました。
 担当の小池飼育課員も、食べそうと思われる餌を並べてできるだけ体力が落ちないようにと努めてくれました。が、徐々に採食量が減ってゆき、十月四日死亡しました。原因は、胆のう癌、そして心不全でした。
 この夏の暑さで体調をくずした次の動物は、トラのサブでした。猛獣は、夏になると採食がゆっくりになったり、時々餌を残すことはあるのですが、トラのサブの場合、特に目立っていました。
 そこで、サブも室内で安静にすごさせることにし、担当の長谷川飼育課員も餌にいろいろくふうし、体力維持をはかったのです。
 九月十六日の朝、担当の長谷川飼育課員より「口腔より出血している」と連絡が入り、トラ舎に急いで行きました。
 サブの寝室をのぞいてみると、サブの口から血がポタポタと落ちていました。しばらく見ていたのですが、とまりそうもないので、麻酔をし、治療を行うことにしました。
 フキ矢を使い、麻酔をして口の中をみてみると、左下顎骨が、右に比べ三倍ぐらいに腫大し、その部位の歯肉は癌化して上の歯がそこにあたって出血していたのです。もう手のほどこしようもなく、とりあえず止血し、上の歯があたらないように歯を削り、今後は、咬まなくてもいいようにミンチ肉を与えていくことにしました。
 その後日増しに衰えが見られ、とうとう十月二十五日に死亡しました。
 こうしたさみしいニュースが続いていましたが、その中でうれしいニュースもありました。まず、熱帯鳥類館のジャングル展示室で飼育しているカンムリシロムクが、当園で初めてふ化、巣立ちに成功したのです。カンムリシロムクは、ムクドリの仲間で、全身白色のとてもきれいな鳥です。
 カンムリシロムクは、十九年前から飼育を始めていたのですが、なかなか繁殖にむすびつきませんでした。そこで、昨年九月に新たに野毛山動物園より一ペアを導入したところ、五月から巣箱に入り始め、四回繁殖し、今のところ二羽無事に成育しています。
 この他、夜行性動物館においてブチクスクスが繁殖しています。この個体はパプアニューギニアより友好親善大使として昨年十月に静岡市にやってきて、当園の仲間入りをしたのです。最初、メスが気が強くて、オスの腰部に咬みつき、一時入院させなければならない状態だったのです。
 その後、彼らに何があったのかわかりませんが、親善大使としてやってきた彼らにとって、この場所が気に入ってくれたようで、ほっとしています。
(八木智子)

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