117号(1997年05月)7ページ
動物病院だより
今年の梅雨は2回も台風が来たり、30℃以上の真夏日を何日も記録し、変わった梅雨でしたが、ようやくまぶしい季節を迎えることになりました。
春から夏にかけての季節、多くの動物、鳥達が繁殖期を迎え、自分の命を次の世代に繋いで行きます。そんな中でちょっと困ったことが起きているのです。
皆さんの目の前の路上で上手く飛べない鳥がいたら、草むらの中で動物の子供がうずくまっていたら、かわいそうに、保護してやらなければ、という気持ちになると思います。でもちょっと待ってください。この時期では鳥の場合、巣立ちして間もない鳥(巣立ちヒナ)の可能性が大いにあります。巣立ちしたばかりのヒナでまともに飛べるヒナは少なく、親に誘導してもらって枝を渡りながら飛ぶ訓練をします。また餌を採る方法やその他の様々な訓練をしながら一人前になり、独り立ちしていきます。
似たようなことが哺乳動物にもいえます。タヌキやハクビシンなどは子供を道路の側溝や民家の納屋などに置いて餌を採りに行きますし、シカやノウサギなども草むらや木の茂みなどに子を置いて餌を食べに行きます。また人が突然やって来た時に子供だけが逃げ遅れてしまうこともあります。そんな時、子供たちはうずくまって親が戻ってくるのを待っているのです。
そんな子供たちを保護してやらなければと、間違って持ってきてしまうケースが非常に多いのです。日本平動物園では傷ついたり、病気になった野生動物や野鳥の保護を行なっており、この時期には300件以上保護されてきますが、その半分以上がそのような子供たちなのです。善意から、優しい気持ちからやったことが、誘拐に等しい行為だと言われては浮かばれません。では、そのような場面ではどうしたらよいのでしょうか。鳥の場合はまず成鳥と巣立ったばかりのヒナを見分けなければなりません。巣立ちヒナは白いうぶ毛が残っていたり、翼の羽根が充分に伸びきっていません。また親と思われる鳥が近くにいて騒々しく鳴きたてていたり、追いかけてくる場合は巣立ちヒナと思って間違いありません。そのような場合は車道などに落ちて危険が迫っている場合は安全な場所に移してやる必要がありますが、それ以外は遠くから観察して親がやって来るのを待ってください。また巣からヒナが落ちてしまった場合も、巣が見つかれば出きる限り巣に戻してください。
哺乳類の場合もまず、離れて観察してください。近くで見ていても親は警戒して現われません。また、なかなか親が帰って来なくても、子供が弱っていなければ大体親は戻ってきます。
このような形で保護された動物や鳥は、人が親代わりとなって子供を育てなければなりません。子供を育てるということは、人も動物も変わりなく大変なことです。そして子供を育てるためには子供が人をこわがらない方が順調にいきますが、いつか自然界で生きていかなければならないのですから、人を恐い存在だと思わなければならないという矛盾した問題が起こってしまいます。
また、巣立ちヒナの場合は自分では餌を食べられないけれど、人は信用しないという場合が多いので、くちばしを指で開けて餌を突っ込むことになってしまいます。
そして何より問題となるのは、本来親から教わってゆく、自分で餌を探したり、敵から身を守るなどというような自然の中で生きていく術を人間が教えるのは非常に難しいということです。
そんな、人に育てられた子供たちが野生の世界でたくましく生きて行けるかというと、やはり難しいようです。それでも彼ら、彼女らを自然に放すときには「がんばれよ!」と声を掛けずにはいられないのです。
(金澤裕司)