でっきぶらし(News Paper)

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101号(1994年09月)6ページ

動物病院だより

 動物病院は一般のお客様に公開していません。いわば立入り禁止区域の一つですが、その中でも特に普段は施錠をして人があまり入らないようにしている室があります。それは薬品庫と検疫室です。薬品庫は医療用その他の薬剤を保管してある室で、使い方によっては危険な薬品も多少含まれているので施錠しています。もう一方の検疫室はその名のとおり動物の検疫を行なう室です。新しく来園した動物に異常がないか、健康な状態であるかどうかを検査する期間ここで飼育します。万一来園した動物が危険な伝染病などを持っていた場合、園内の動物に感染してしまう恐れがあります。そういったことを避ける為に、検疫室は他の動物とは完全に隔離された室となるようにしています。人間に病気が染ることや、人間が他の健康な動物に病気を運んでしまうことも十分に考えられるので、検疫室には必要最小限の職員しか入らないようにしており、施錠をしているわけです。
 その検疫室に11月中旬現在、パプアニューギニアより動物親善大使として来園したブチクスクスのペアが入っています。大使に対して検疫室とは失礼な話かもしれません?が、来園する動物にはみんな一度は入って頂いています。冷暖房完備、まかない付きの昼寝付きという待遇はそう悪くはないと思うのですが・・・。
 さてこのブチクスクス、有袋目と呼ばれるカンガルーの仲間に分類される動物ですが、来園前から餌や環境などについてなかなか気むずかしそうだという噂を聞いて気をもんでいました。が、実際に来園した個体に接してみると、2年以上現地で飼育されていたというだけあって予想以上に「いいやつら」です。餌も一通り一般的なものを食べてくれますし、人間に対してもそれ程臆病ではありません。物音や光には多少過敏に反応するところもありますが、展示に際してお客様にマナーを守って頂ければ何ら問題のない範囲でしょう。
 彼らとて動物。つきあってみるとやはり性格があります。オス(白地に茶色のブチ)はわりとおおらかなようで、体に触れてもあまり嫌がりません。特に食事中は食べることに一生懸命で、尾を引っぱろうが足を広げようがまったく気にならないようです。(大使に対して何と無礼なことをしているのでしょうか?)それに比べるとメス(白地に灰色)はやや神経質なようです。それでも食事中は少し触れさせてくれますが、餌の好みも違います。クスクスは雑食で、動物性のものも植物性のものも食べます。パンやゆで卵などがオス・メスともに一番好きなようです。その次に好きなものとなると違いがでます。オスはバナナや煮イモなどですが、メスはリンゴやカキなどです。メスの方が好き嫌いは少ないようです。きっとよいお母さんになることでしょう?
 普段は無表情で動作が少なく、ボ〜とした感じの印象を受けるかもしれませんが、食事時になると急に別人(別クスクス)のように活発になります。(食事の時だけ元気な大使っていったい・・・)みなさん、こんな彼らにぜひ一度謁見に来て下さい。特に食事中の彼らに。12月には夜行性動物館に移り、定住することになっています。性格をおさえた上で観察すると、きっとその動物がより身近なものになってきますよ。 
 性格といえば・・・やはり動物病院に人工哺育で育った2頭のハクビシンがいます。(一見タヌキのような動物。夜行性動物館で展示しています。)一方は3ヶ月齢のメス、他方は1才3ヶ月齢のオスです。両方とも生後まもない、まだ眼の開く前の時期に保護されました。同じようにミルクを与えられてすくすくと大きく育ちました。しかしまったく性格の違う2頭になってしまったのです。オスの方はいかにも人工哺育という性格で、おっとりしていて人間にべったり。十分に大人になった今でも人間の肩に乗ろうとしたりしています。それに対してメスの方は気が強く、気に入らなければ人間にも向かって来ます。ようやく離乳したといった大きさですが、「私は誰の助けも借りずに一人(一頭)でここまで大きくなったのよ。」という顔(態度)をしています。このオスとメスの性格、現代の若者そのままという声を聞きましたが、「現代の若者」であり、彼らの育ての親の一人である私としては妙に愛情をもって感じてしまいます。
 みなさんにとって野生動物は身近な存在ではないでしょうが、そんな野生動物にもペットの犬、猫と同様に確かに「性格」はあります。それはもちろん飼育個体のみに限られるものではありません。みなさんがもし野生のタヌキにでも出会ったら、じっくり観察してみて下さい。のんびりタヌキか、せっかちタヌキか、うっかりタヌキか・・・。そんな一面を見せてくれるかもしれません。
(高見一利)

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