でっきぶらし(News Paper)

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62号(1988年03月)11ページ

動物病院だより

 園内ではツツジ、フジが咲きみだれ、若葉が目にしみる季節となってきましたが、皆さんお変わりありませんか。
 この季節は動物達も赤ちゃんが誕生するいい時期です。日本平動物園でも3月から4月にかけて誕生があいつぎ、園内はなんとなくウキウキした気分が漂っています。お客様にとって親子の姿がほほえましく思えるし、第一生まれた子供の為に重要なことと言えます。
 ところが今年は例年になく人工哺育が多くて、動物病院はまるで乳児院のようなありさまで、保育箱が病院の2階に所狭しと並べられています。また、流し台の横には、使用するミルクや哺乳ビン(哺乳ビンと一言でいっても、ピグミーマーモセットには1ccのガラスの注射器、クロキツネザルには10ccのガラスの注射器、ヒョウやツチブタには犬猫用の哺乳ビン)が並べられています。
 哺乳時間も最初は4時間おきくらいですから、各々の担当者は一日何回となく病院の階段をのぼりおりするわけで、足腰じょうぶになるわけです。特に病院の階段は急なので、勢いこんでのぼり始めても残り3段が多いとか・・・ぼやいていました。
 こうした人工哺育の子供達が入院してくる中、ワシントン条約違反ということで、清水や焼津の税関から保護依頼をうけた動物達も入ってきます。ワシントン条約とは、マスコミ等で報道されていますので既に御存知かと思いますが、正式名称は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」といいます。この中で保護が必要とされる野生動植物について付属書で?T〜?V類にわけられ、各々の必要性に応じて国際取引の規制を行なっています。
 ところが正式の手続きを取らずに持ちこまれてくる動植物は後をたたず、税関できびしくチェックし始めたところ、たて続けに鳥や哺乳類がひっかかり、当園の検疫室はまたたく間に満室となってしまいました。持ちこんで来た船員さん達の話によれば、「長い航海でさびしかったから。それにすぐ手に入るよ」とのこと。改めてこの条約が徹底されていない現実をみせつけられた気がしました。
 これら保護されたものの中で、一部は子供動物園の一角にインコ舎を作り、送りかえすまでの間展示飼育をすることにしました。このインコ舎も動物園の職員が通常の仕事の合い間をぬってコンクリートをうったり、溶接したり、あるいは外側に絵をかいたりしてつくったものです。味わって御覧になって下さいマセ!
 こんな具合で、獣医日誌は毎日書くことがありすぎて、どれから書こうか迷ってしまうほど、一度に調子がおかしい個体がでてしまうともう大変!無線機を持っているおかげ(?)で「八木さん、とれますか?」のコールがいつかかってくるかヒヤヒヤ・・・。「ちょっと待って。今○○しているから、こちらが終わったら連絡するヨ。」てな調子。また急いで行かれないと、相手を呼び出して「○○を先にやっておいて。」とか「○○の状態はどうですか?」とか、ある程度の状態が把握できるありがたさもあります。
 先日、マサイキリンの出産があった時の事です。夕方、いつもの調子で見回りをしていてキリン舎の前に立ち、「ああ餌たべているな、さて今晩は生まれそうかな。」と思い、陰部を見る為部屋に入ると、なんと前足2本しっかりでていたんです。さっそく無線機で連絡、すぐに観察体制が組まれ、私は病院へ。(たぶん人工哺育だろうからと、子の身体をふくタオルを取りに行ったのです。)
 いつも2時間くらいかかるので、病院のかたづけをして、おもむろにタオルを用意していたところ、課長より「頭が出たぞ。おい落ちるぞ、落ちるぞ・・・。」の声。あれ、まだ1時間も経っていないのに。あわてて病院よりキリン舎に向かって走りだしたのですが、夕方でエネルギーはなくなっているわ、足は短いわで、なかなか着かず結局出産の瞬間は見られませんでした。
(八木智子)

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