でっきぶらし(News Paper)

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明日に向かって(1994年・主な出産動物) 帝王切開の後、無事出産

 帝王切開。かつての歴史を紐解いても、子はおろか親でさえ哀れな末路を辿っています。絶望を予感します。
 私自身は、エンペラータマリンでずいぶん切ない思いをしました。どう言う訳か、子がどんどん過熱な状態になっていったのです。
 最初は、それでも頭骨が砕けながらも子は産道を通過したものの、二度目は出なくて床にへたり込んでしまいました。通常は四十余グラムの子二頭、八十余グラムなのに、その時は一頭は五十余グラム、二頭でおおよそ百グラムもありました。
 更に三度目。今度は一頭だけでしたが、子は六十グラム以上で、やはり産道をくぐるにくぐられませんでした。で、その帝王切開後の親の肥立ちが悪くて、結局は子の後を追わせる破目となりました。
 このような経過を見ていたのです。種は違えど、クロミミマーモセットが同じような状況になったとの報を耳にした時、なんとも言えず失意のようなものを覚えました。
 それがある日、獣医がやや御機嫌な口調で「あのクロミミマーモセットが赤ちゃんを生んだよ。一頭だけどね。」です。しばし沈黙、選ぶ言葉が見つかりませんでした。
 失礼な言い方かもしれませんが、私以上に執刀した獣医が一番信じられなかったのでは、と思います。親だけでも生き残ってくれれば儲けもの、と居直っていた気すらします。
 希望は捨てるものではありません。諦めずにこつこつ努力していれば、それなりの応答があるものです。クロミミマーモセットは平凡な小さなサルですが、意義ある大きな育児をしています。
 とは言っても、うかつに浮かれられないのがこの世界の常。いつ奈落の底に突き落とされるか分かりません。それでも明日への糧を築いてくれた出産の数々、子の愛らしい表情は理屈抜きに救いです。
(松下憲行)

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