102号(1994年11月)11ページ
あらかると 類人猿の風邪対策
毎年冬になると、獣医と類人猿担当者が顔を合わせた時の?拶言葉といえば、「彼等(ゴリラ、チンパンジー、オランウータン)、風邪ひいてない?」「うん、まだ大丈夫なよう。」これが定番です。
風邪をひかせないよう、暖房の効いた室内から冷たい運動場へ直接出すことはせず、まず朝一番獣舎の暖房を切ります。しばらくしてから運動場の扉を開放して外気を室内に。徐々に室温を外気温に近づけてゆき、温度差をなるべくなくしてから彼等を外に出すのです。
陽射しもなく、雨や風が強い時などは、開園時間になっても入園者が類人猿の前に来るまで出さないとか、早く入室させて室内展示場で見せたりとかして気を遣っています。が、それでもひく時はひいてしまいます。
やっかいなのは投薬です。人のように苦い薬を病気を治す為にと我慢して飲むようなことはしません。毎朝夕に与えるミルクに混ぜてごまかして飲ませるのが最良の方法です。
獣医の方もそれを考慮して、白色、限りなく無味無臭に近い薬を調合してくれます。それをふだんより濃い目のミルクに溶かせて飲ませるのですが、それでも一口飲んだだけで味の変化を見抜いてしまいます。後、いくら粘ってももう飲もうとしません。
試した人が薬そのものの臭いをかいだり舐めたりしても味はなく、ミルクに混ぜても味が変わってしまうような感じもしないのに、何故か飲もうとしません。大好きなヨーグルトに混ぜても駄目な時があります。
それでも、採食状況が割合によく熱もない時は安心です。彼等自身に体力をつけて自然に治る力に任せられますから。
この冬はチンパンジー3頭が、くしゃみに鼻づまりとまず風邪の症状を見せました。が、これは子供用シロップを数日飲ませると元気を回復、他の種類にうつることもありませんでした。
次にオランウータンのジュンはお腹にきてしまい、食欲もなく熱もあるようでした。動作も鈍り、部屋の隅でじっと頭をかかえてうずくまってしまうようになって・・・。
が、幸いにもジュンの場合は薬の入ったミルクでも素直に飲む個体でした。一日三回の投薬が効いて、二、三日で回復です。
ところが、当の担当の私もジュンと同じ風邪の症状が出て、吐くのと下痢で食欲もなくしてしまいました。病院へ行って薬をもらうも、二日間寝込んでしまいました。
ゴリラやその他の個体は今のところ順調です。インフルエンザが流行する兆しがある中ですが、なんとかこのまま無事に春を迎えて欲しい、と願っています。
(池ヶ谷正志)