102号(1994年11月)12ページ
動物病院だより
1月17日に関西地方を襲った地震、みなさんは記憶に新しいことと思います。非常に大きな地震で、その被害もたいへんなものとなりました。私の神戸にあった実家も全壊してしまいましたが、両親はなんとか無事で胸を撫で下ろしています。
このような地震に直面して、動物園、水族館はどうなったのでしょうか。
神戸市には王子動物園、須磨海浜水族園という立派な動物園、水族館があります。王子動物園は当園のキリンのイクが生まれたところで、また当園で生まれたオオアリクイのボニートが暮らしているところです。この動物園は今回の地震でもっとも家屋の被害が激しかった地域にあります。しかし獣舎の損壊はさほどでもなかったということでした。やはり動物園の獣舎は他の建築物と比較してもかなり頑丈に造られているようです。それでは無事ですんだのか、というとそんなことはありません。水道、電気、ガスが完全にストップしてしまったのですから大問題です。動物の飲む水がありません。掃除ができず衛生状態も悪くなります。暖房が使えず温度が上げられません。寒さに弱い動物は即、死に直面することになります。また報道で御存知だったでしょうが、交通網が完全に遮断され、市場も機能していませんから、動物の餌が入手できません。大型で体力のある動物なら2、3日の絶食でも大丈夫でしょうが、動物種によっては一日餌を断っただけで衰弱してしまうものがかなりあります。各地で寸断され大渋滞となった道路を縫って、近隣の動物園の協力を得て餌を運び入れたと聞いています。一時は一部の動物を他の動物園へ避難させるという話も出たようですが、幸いそれには至らなかったようです。最大の危機的状況は脱したようですが、園内は遺体安置所となり、また救助にあたっている自衛隊の宿営地となっているようで、1月末の時点で再開のめどは立っていないということです。
では須磨海浜水族園のほうはどうだったのでしょうか。水族園の施設についての被害は確かな話ではありませんが、やはりそれ程でもなかったと聞いています。しかし地元の新聞の記事によると、水族園は壊滅状態ということでした。ごく一部を除いてほとんどの水族館では停電とともにその機能がストップしてしまいます。普段は飼育している種に応じてその水槽の水温をコントロールしていますが、それが維持できなくなります。また、水を循環させてろ過し、水質を保っていますが、その循環も停止します。非常用の自家発電もあるでしょうが、それにも限界があります。一日ももたないでしょう。おまけに水道、ガスともに止まっているというのでは打つ手がありません。その新聞記事によると、飼育魚類の8割近くが死亡したとありました。まさに壊滅状態で、被害は水族園の方が深刻なようです。
いずれの場合も、施設としての前述のような被害はもちろんのこと、そこで働く職員もみな被災者であり、多くの方が家や肉親をなくしているということも大きな問題です。ともかく一日も早い地域の復旧、両園の再開を心から祈りたいと思います。
ところで、東海地震が来るぞと言われて久しい静岡ですが、日本平動物園の地震に対する対策はと言いますと・・・。まず、年に一度の防災訓練があります。職員が災害時の自らの役割を確認するとともに、各施設が緊急時に順調に作動するかの点検などを行なっています。また獣舎については老朽化しているものもありますが、地震を想定したかなり頑丈な造りとなっています。万一動物が脱出した場合でも、2重、3重のフェンスがあり、すぐに園外に出てしまうというようなことはありません。しかしどこまで備えても万全ということはありません。今回の地震でも耐震設計と言われていた多くの施設が崩壊しています。「まさか」が実に多くの現実となってしまいました。また、今までは地震が発生しても地震そのものによる被害と火災さえ免れれば安全、何とかなると考えていました。しかし、その後電気、ガス、水道がストップし、物資の補給が断たれたら・・・。また夜間におこったら・・・。災害に際して人間はもちろん、いかに動物たちの安全を守り、被害をより少なく食い止められるか、日本平動物園でもまだまだあらゆる場面を想定した、より具体的な対策づくりを行なっていく必要がありそうです。
市内でも、今回の地震を機に防災意識がいっきに向上し、防災用品も飛ぶように売れているようです。災害に対する認識を新たにする大きな機会だと思いますが、時間とともにこの意識が風化して、遠い土地の他人事とならないでほしいと願います。
(高見一利)