でっきぶらし(News Paper)

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あらかると 「髪の毛を切れば」

 私は、チンパンジー、ゴリラの担当者が休みの時、彼らの世話をしています。そんなある朝のことです。
 ミルクを作って一頭目のチンパンジーに飲ませていましたが、ちらちらとしきりに私の頭を見ながら飲むのです。変だなと思いましたが、すぐにその理由に気付きました。
 それまで伸ばし放題にしていた髪の毛を、休日にきれいさっぱり坊主頭にしていたのです。彼にすれば、確か二日前の夕方にミルクを飲ませてもらった時には、頭に毛がぼさぼさ生えていたのにおかしい、と思ったのでしょう。
 それは、他の二頭のところへ行っても同じでした。特にひどかったのは人工哺育の二才になる子供でした。名前を呼んで部屋の中へ入ると、怯えた声を出して寝袋を抱きかかえたまま隅へ逃げてしまったのです。
 しばらく名前を呼び続けると、まだ怯えた声を出しながら恐る恐る寄ってきて、やっと抱きついてきました。それでも、少しの間は抱きつきながら怯えた声を出していました。
 人工哺育で接触時間も多くて担当者を親と思っている分、ショックも大きかったようです。私達は彼らを毎日世話する中で、体の状態や精神状態を観察し把握している訳ですが、同じことを彼らも私達と接触する中で感じとっているのだと再確認しました。
 これからも、今まで以上に心身共に緊張感を持ち、「この担当者、いったい何を考えて俺達の世話をしているのだろう。」などと胸の内に抱かれぬよう、襟を正して彼らと接していこう、と改めて思いました。
(池ヶ谷正志)

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