104号(1995年03月)11ページ
動物病院だより
新緑が気持ち良い今日このごろですが、皆さんお変わりありませんか。
当園の動物病院のスタッフのひとりであった高見獣医師が、三月末に退職し、四月から金沢獣医師が新採用され、スタッフに加わりました。彼が、一番最初に手がけた仕事が、野生から保護されたムササビでした。ミルクは、犬用ミルクを規定の半分の濃度にうすめて使うことにしました。そして哺乳ビンは、10ccのガラスの注射器、その先に犬用の乳首をつけてできあがり。
さて、ミルクを与える前に肛門あたりを指でさすってやり、排尿、排便を促します。最初、なかなかうまく排泄を促せなかったものの、回を重ねるごとに、ポロポロと粒状の便がでて、気持よさそうな顔をするようになりました。
順調に哺乳がすすみ、次は離乳の段階に入り、彼は少々悩んでいました。実は、今回保護された個体は甘えん坊で、器に離乳用のバナナや煮イモ、リンゴを入れておいても食べてくれず、しかたなく口元に持っていってやると、おいしそうに食べるのです。
今まで保護されたムササビは、そろそろ離乳の時期かなと、器に離乳食を入れてやると、パクパク食べてくれ、スムースに離乳できていました。「どうしましょう?!」
そこで強引に、一回に与えるミルクの量を減らし、おなかがすいたらなんとか考えて餌を食べる、この作戦で離乳作業を行なうことにしました。
やり始めてしばらくの間は、なかなか食べてくれず、やきもきしましたが、そこは忍の一字、ただひたすら、ひとりで食べてくれるのを待ちました。その為、このムササビにつけられた名前が「グズ」。
この名前に奮起したのか、ある日の朝箱の中をのぞくと、入れておいたバナナがなくなっていたのです。やれやれ、ようやくわかってくれたのです。これで一安心。やっと離乳の見通しがつき、彼の初の人工哺育は無事終了となりそうです。
さて、動物病院の中には、いろいろな動物達がいます。シシオザルのユッコもここの住人でした。ユッコは1993年6月19日に生まれました。生まれたすぐは、おかあさんが抱いていたのですが、しばらく見ていると、逆さまに抱いたり、子のしっぽを咬もうとする動作が見られたので、取りあげて人工哺育にすることにしました。
シシオザルの人工哺育はこれで2回目でした。最初に人工哺育をしたオスのゴクウは、現在白浜アドベンチャーワールドで飼育されています。
ユッコは、ゴクウ同様、とても頭がいいサルで、入院室の放飼場と寝室の間の引き戸にカギがかかっていないと戸ビラに手をかけ、横に向かって押しながら戸ビラを開け、放飼場と寝室とを自由に行き来していました。
このユッコも、天王寺動物園生まれのオスと一緒に、今年3月13日に仙台の八木山動物園に移動しました。ユッコが人工哺育であることが、今後どんな問題をおこしていくか少々心配ですが、なんとか二世誕生を期待したいと思います。