106号(1995年07月)13ページ
子育て・裏方事情【人工哺育後の試行錯誤】
人工哺育(育雛)は、避けられるなら極力避けるべきでしょう。今まで語っている悩み、切なさは、ヒトが母親替わりになってしまっているが故に生じているのですから。ですが、無意味だからしたくない、すべきでないとの考えには同意しかねます。
人工哺育で育てられ後に群れに戻そうとして失敗したケースでも、行動を観察していれば、その記録自体が貴重な財産になるし、今後の判断材料にもなります。
例えば、古い話で恐縮ですが、かつてダイアナモンキーの子をそのようなケースで親の元へ戻そうとした試みがあげられるでしょう。
母親とはなんとか同居が可能、いよいよ父親と同居を試みたところで失敗、同居を断念せざるを得ませんでした。が、当時はまだ若かった私にとって、サルを考える上で貴重な体験でした。
サルは、社会性の強い動物です。序列の厳しい動物です。ルール違反には、厳しい制裁が待ち受けています。
人工哺育で育ったが故にルールを知らず、それが原因でオスに制裁を受けて同居を断念せざるを得なかったのですが、殺そうと思えば殺せたであろうに、咬んだ箇所は腕、脚、尻尾とあまりダメージの残らないとこばかりでした。失敗した嘆きより、妙に感心してしまったのを今でも覚えています。
ただ、当時のボスは非常に気性の激しい個体、キーパーがどんな理由があったにせよ仲間に手出しをすれば、翌日になっても激しい形相でキーパーに向かってきた個体でした。もう少し性格の穏やかな個体だったら、うまくいっていたかもしれません。
当園では、このような試みは一度きりですが、他園ではそうめずらしいケースではありません。が、同居後を聞いておりません。交尾、育児能力がどうなったか気になりますが、それは望みは薄いと言わざるを得ません。