108号(1995年11月)10ページ
動物の仕草あれこれ?T(モンキー編)【お母さん ちょうだい】
サルのけちんぼぶり、食べ物を巡る厳しさはお分かり頂けでしょうか。知っているのはニホンザルのケースですが、群れが分裂する主因は、下位ザルがおいしいものにたっぷりありつけない不満にあるようです。
では、サルには食べ物を与える行為は全く存在しないのでしょうか。特に母子あたりにはあったっていい筈です。
ただ、類人猿は意識なさらないで下さい。ボノボ(ピグミーチンパンジー)やチンパンジーでは、はっきり確認されています。ニホンザルのような尻っぽのある真猿類を基準に考えて下さい。
多くのサルを扱って、多くの育児光景を見てきました。けれど、ついぞ見せることのないのが、“与える”です。母子であってもです。「奪ったりはしないから勝手に喰え」と、そう言っているようですらありました。
ただ、ただ、一種類にだけそう思える光景に出会っています。アカテタマリンでです。離乳も終えてしばらくした頃、生後六ヶ月ぐらい経っていた頃でしょうか。
夕方、全ての作業が終わった後に、彼らに最後の餌、バナナを二センチぐらいに切ったのを一頭ずつ手渡しで与えるのを日課にしていました。そうしてアカテタマリンの“ある光景”に出会ったのです。
親は、すぐに取りにきます。オスもメスもです。でも、子はまだ私を恐れているようでした。で、そこで子が何をするかと言えば、親が私から受け取ったバナナを取りにゆくのです。二頭がそれぞれ、父に、母にです。
親は怒りません。すっと渡します。親はそうしてから、再び私の元にやってきてバナナをもう一切れ受け取ってゆくのです。これは正しく“与える”ではないでしょうか。それ以外に解しようがありません。
実はある文献に、クロクビタマリンの例で同じような話が載っていました。親がバッタを捕らえると、待っていたかのように子がやってきて、それを持ち去ってゆくと―。バナナとバッタと餌は違えど、行為は全く同じです。
真猿類にも、“与える”行為はあるのだと、マーモセット類を扱って初めて知り得ました。