109号(1996年01月)13ページ
動物園こぼればなし 〜 動物病院のぼやき 〜
(八木智子)
動物園にとって、春は赤ちゃん誕生のニュースが飛び交うホットな季節です。ところが当園ではこの2〜3年はベビーラッシュといった言葉はほど遠く、なんともさみしい春を迎えていました。その原因としては、まずは飼育している動物が高齢になって繁殖しにくくなってきていることがあげられます。また、ベビーラッシュとして常連となっていたアメリカバイソン、トラ、ライオンといった動物はふやしてもその子供達を収容していく場所がない等の理由で、産児制限をせざるを得ない状況があったのです。
しかし、今年の春は少し違いました。4月には、甲府市遊亀公園付属動物園より新しく導入したワタボウシパンシェが出産し、同種では14年ぶりの繁殖となりました。そして、同じ仲間であるクロミミマーモセットが5月に、7月にはサンタレムマーモセットが繁殖し、小型サル舎は一気ににぎやかになりました。
また、下の池にあるクモザルの島では、ジェフロイクモザルが6月に繁殖しました。今までに4回繁殖しているのですが、成功したのは3年前の1回のみで、それも人工哺育で大きくなっていました。今回は、母親の面倒見がよいので、親元で順調に大きくなっています。
鳥類では、ムクドリの仲間であるカンムリシロムクが初めて繁殖に成功しました。当園では、14年前より飼育を始めたのですがうまくゆかず、国内のカンムリシロムクの繁殖計画に従い、昨年9月に個体を入れ替えたところ、功を奏し、5月と10月に各1羽巣立ち成育しました。その他、カナダガン、ツクシガモ、オシドリといった鳥達のヒナも次々と誕生していました。
こうして久しぶりのベビーラッシュで喜んでいたのも束の間、7月に入りカルフォルニアアシカ、オオアリクイ、10月にはブチハイエナ、ニホンツキノワグマ、トラが死亡してしまったのです。
カルフォルニアアシカは6月に繁殖したのに、7月に雄が白血病、雌が肺炎と両親が相次いで死亡した為、子を取り上げ人工哺育にしたのですが、その子も残念ながら死亡してしまいました。
またオオアリクイは、昨年10月に当園で繁殖した個体で、雌だったので今後他の動物園に移動して繁殖計画に貢献してもらおうと期待していたのですが、急性心不全であっけない幕切れとなってしまいました。
ブチハイエナの雌は、朝室内で餌を吐き戻して苦しがっているのを発見し、すぐに対処したのですが、残念ながら窒息という思いがけない結末となってしまいました。
その他ニホンツキノワグマの雄は胆嚢癌で、トラの雄も歯肉、歯の腫瘍で死亡したのです。
こんなふうにあいついで死なれてしまい、今年前半うきうきしていた気持ちは徐々に薄れ、またまたさみしい年の暮れを迎えそうです。