でっきぶらし(News Paper)

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動物を知る(?U)人工哺育編 成功例ピグミーマーモセットの場合

 「ピグミーマーモセットが出産しました。オスがしっかりとおんぶしています。」と甲府の遊亀動物園からそんな電話をもらったのは、かれこれ6年くらい前でしょうか。見にゆかずにはおれない衝動が、たちどころに生じてきました。
 ピグミーマーモセットの繁殖自体はおかしくも珍しくもありません。むしろ、小さい割には丈夫で繁殖に導き易い動物です。
 遊亀動物園の方からは、当園からのブリディング・ローン、すなわち繁殖のために貸し出した動物であったので、お礼を兼ねた電話ではありました。が、私は思いの外の朗報としてだけでなく、もっと大きな意味として受け止めていました。
 実は、ピグミーマーモセットのオスは人工哺育で育った個体だったのです。いわゆる問題視せざるを得ない個体でした。
 そのオスが子供を生ませた、なおかつ面倒を見ていると言うのですから、この眼でしっかり確かめずにおられなくなったのです。3頭生まれ、2頭は間もなく死んだそうですが、残りの1頭はオスの背にしっかり乗っかっていました。
 本音を少し覗かせるなら、密かな期待が現実になったと言うべきかもしれません。あのピグミーマーモセットのオスは、1頭でなく2頭で育っていたのです。ヒトに育てられたとは言え、物心がついた時から目の前には触れ合い遊べる相手がいたのです。 
 幾度も経験を積み重ねていって、社会性を身につける有無の狭間を見ていると、孤独やヒトとだけべったりがより危険な状況を招いているのが見えてきます。人工哺育でも、より早い段階から同じ種の元へ戻してやれば、そこそこうまくゆくケースは聞いていました。ピグミーマーモセットの場合は、自然にその状態になっていたのです。
 ちっとも懐こうとしない可愛げのない奴でした。でもそんなのはちっぽけな、問題にもならない問題です。何よりも仲間同士の付き合うルールを身につけることこそが問題です。 
 ややもすれば砂を噛むような味気なさを残す人工哺育、ピグミーマーモセットはそんな無味な味わいから初めて解放してくれました。
(松下憲行)

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