115号(1997年01月)8ページ
このところの繁殖事情◎ソリハシセイタカシギ 無念の涙のんだ
ソリハシセイタカシギのヒナが、ふ卵器でながらかえったとの報せを耳にした時、いささか信じられぬ思いでした。と同時に、うまく育てられればビッグニュースであるとの気持ちにとらわれもしました。
日本の動物園で今までふ化どころか、有精卵を取ったことすらなかったのではないでしょうか。熱帯鳥類館の一角、湿地帯の鳥のコーナーで飼育されているのですが、飼いこなしているだけでもたいしたものでしょう。それを産卵するまでに導き、なおかつふ化するまでに至らせたのです。誰しも、すくすく育つことに大きな期待を寄せたでしょう。日本で初めてとあっては、寄せずにはいられなくなってきます。
しかしながら、です。種名から想像される通り、くちばしが細く反って長いなら、脚も細く長いこのような鳥は、育すう期に脚を駄目にしてしまうケースが往々にしてあるものなのです。
ふ化直後は、育すう室の担当者は朝早くから、1時間おきに小魚を少しずつ与えていたそうです。そうしてある程度目安がたった後に担当に引き継がれました。
順調に育っている、手間も以前ほどかからなくなったと聞いて、では記録に記念に自らのカメラにも収めておこうと熱帯鳥類館に赴きました。
日光浴を兼ねて、担当者は外に出してくれました。育すう室で見た時とは大違いです。わずか2週間余り見なかっただけで、ぐんと成長していました。
「あれっ」と、瞬間、不安がよぎりました。歩き方が少し変なのです。聞けば、2、3日前からそうなっているとのこと。担当者の顔には少し渋い表情が漂っていました。
それから、二度とカメラに収めることはできなくなりました。脚の細長い鳥は脚を傷めやすく、かつそれは致命傷になるという教訓を生かせなかった結末を迎えてしまったのです。担当者に慰めの言葉、あろう筈もありません。