115号(1997年01月)9ページ
このところの繁殖事情◎オオアリクイ、信じられぬ出産
昨年の12月17日の朝は、私にとって生涯忘れられぬ一日のひとつになるでしょう。全く予想だにしていなかった出来事にぶつかって、正に慌てふためいた一日でした。
さあ朝食を与えようと部屋の明かりをつけると、血が排水溝に向かってすうっと流れています。次にオカアチャン(メスの名)の寝ている部屋の手前は胎盤らしきものが・・・。
頭の何分の一かは、もうパニック状態です。まさかの思いで眠っているオカアチャンの胸元を見ると、間違いなく赤ちゃんがいます。信じられないものの、事実をどーんと突きつけられれば信じるしかありません。
ただ、突然の出産ならさして驚きはしません。一応この道28年のベテランのはしくれです。自慢ではありませんが、みっともない経験もしっかり積み重ねています。
オカアチャンには、やっと離乳したばかりの子がいたのです。生まれは3月22日、その子はまだ9ヶ月足らずしか経っていなかったのです。
つい1週間ぐらい前にようやく離乳に導けて、はしゃいだ気分にまだ浸っている最中でした。そのような状況下で次の出産を予想だなんて、200%無理です。むしろ変な夢を見ている気分でした。
でも、現実。どう対処しようかと迷ってほんの数分間目を離している間に、子が乗っている親の背に先の子グァポまでもが乗ってしまい、子はサンドイッチ状態にされ悶絶。
考えている暇なんてもうありません。獣医を呼んで、前々担当者にも来てもらって、慌ててグァポを引き離して、とにかく育児できる環境を整えました。
子は、メス。これは前々担当者に判別方法共々教えていただきました。オカアチャンはよく人馴れしているからと、子の体重測定も勧められ、その方法も教えていただきました。
3月5日現在で体重は8.25kg。生誕時は1.6kgですから、まずは順調な発育です。グァポも思いの外ショックも見られず、餌もよく食べています。変な夢のような現実は、楽しい現実に変わりつつあります。
(松下憲行)