115号(1997年01月)10ページ
あらかると 「オランウータンの寝言」
ある冬の日の朝7時頃です。いつものように扉を開けると、オランウータンのベリー(メス)はたいていそのガチャガチャする音で目を覚まします。が、どうもその気配がありません。もっとも、よく寝入っていれば、体をたたくまで起きないこともあります。
声が聞こえるので、珍しく早起きしていたのかと思って部屋の方を見ても、こちらを見ている様子はありません。もう一つの扉を開け彼女の部屋を覗くと、どうもまだ眠っているようです。
2、3度名前を呼んでも、何の反応もありません。あれは、もしかして寝言・・・?!
ミルクを作ってから、体温測定のために入室しようと錠前をガチャガチャさせて名前を呼ぶと、今度は起きてきていつものように長々と起きぬけのオシッコをし始めました。やっぱりあれは寝言でした。
しかし、オランウータンも人と同じように寝言を言うなんて、にわかに信じられません。担当期間の長かった前任者に尋ねても、聞いたことがないとの返事でした。
と言いつつ、「ネコだって夢は見ると言われているのだから、ヒトと同じ仲間のオランウータンが夢を見、寝言を言ったってそう不思議ではあるまい。」とつけ加えます。そう、本当に寝言だったら面白い。
でも、あの寝言は精神的に不安な時に出す声でした。恐い夢でも見ていたのかもしれません。
今度は、目の前にどれから食べていいかわからないくらい山盛りのご馳走を見て、喜んでいる夢でも見て欲しいものです。そして、そんな時にはどんな声を出すのか聞いてみたいものです。
(池ヶ谷正志)