でっきぶらし(News Paper)

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動物病院だより

 今年の冬はだいぶ暖かく感じられましたが、それでも3月に入ると春の訪れを感じ、のんびりとしていたいような気持ちになります。しかし動物病院ではそんな感慨に浸っている時間はなく、昨年末から非常に忙しい日々が続いて、獣医師日誌も毎日隙間がないくらいにびっしりと書き込まれています。それだけ忙しく、日誌に書くことが多いということは、治療もしくは投薬中という動物が多いということですが、今回はそのうちの一件を報告したいと思います。
 B作は子供動物園にいるヤギのオスで現在の群のボスです。昨年の冬に双子で生まれたうちの1頭なのですが、出産後のお母さんヤギの乳の出が悪くて、人工哺育ということになりました。もう1頭はA太郎と名付けられ、2頭そろって担当者からミルクを与えられて育ちました。産まれた時の体の大きさはさほど変わらなかったのですが、ミルクの吸いつきはA太郎の方が良く、またB作はお腹が弱くてすぐ下痢になってしまい薬を毎日飲ませるという状態でしたので、見る見るうちに体の大きさに差が出てきました。それでも担当者の愛情のこもった世話のおかげで、2頭とも立派に成長しました。
 そんなB作なのですが、ある日どうも食欲、元気がないということで子供動物園に行くと、オシッコをしたくても出せないような感じが見られたので、石が膀胱か尿道にできているのではと思い、すぐに入院させました。
 オシッコを出すということは大切なことで、体に不要な物を出すという働きがあるのでそれが長く出来ないと尿毒症になって死んでしまうこともあります。そこですぐに治療を開始し、膀胱と尿道の中を洗いました。すると次の日にはだいぶ動きが良くなり、オシッコも出るようになりました。そして、その翌日にはオシッコをするときに力むような動作もなくなり、退院して治療をしながら様子を見るということになりました。
 しかし、その3日後、朝から餌を食べず、排尿がなく、お腹が張っているということで、すぐに再入院して手術を開始しました。まず尿道を開いて石を出そうとしましたが、その付近に石はなく、すぐにお腹を開くことになりました。そして合わせて3時間以上の手術の後に石と大量の尿を取り除くことが出来ました。ただ体の中に大量の尿があったことから、「これは、きついなあ」等と話しながらお腹を閉じました。するとその後すぐにオシッコをして「おー開通だ」と、入院室に運ぶと「メェー」と鳴いて立ち上がりました。これには八木獣医と顔を合わせて驚いてしまいました。それでも「きついだろうなあ」という感覚を消すことが出来ませんでした。
 翌日、少ないものの採食はあり、オシッコも出ました。そして徐々に日が経つにつれ食欲も増して、オシッコも毎日出るようになっていました。汚れやすい場所の手術の後なので毎日傷の消毒と注射などをしなければならなく、この場合押さえつけて仰向けにしなければならないのですが、いくらヤギが家畜で人に馴れているとはいっても、そんなことをすればかなり嫌がるのが普通ですが、B作は人工哺育なので治療のために入院室へ入っても嬉しそうに尻尾を振って迎えてくれ、仰向けにしても平気は顔で反芻していたり、とても楽に(?)治療できました。また人が入院室の前を通りかかったりすると、相手をしてくれと「メェーメェー」と騒いだり、特に餌を調理場で作っている時など絶え間なく鳴き続け、「まだか、まだか」と催促します。それにつられて、入院しているオウムやインコたちの大合盾ニなり、人の声が聞こえなくなるくらい騒々しいのですが、尻尾を振っている姿を思い出すと「まあ、しょうがないか」と思ってしまうのです。
 そんな風にして徐々に快方に向かい、手術の時の悪い予測は見事に裏切られました。手術から20日ほどして退院したのですが、今では子供動物園で元気にメスのお尻を追っかけています。
 (金澤裕司)
 

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