120号(1997年11月)11ページ
動物病院だより
皆さん、年末・年始はどのように過ごされたでしょうか。御存知のように師走とは文字通り、師(お坊さん)も走るほどに忙しいと言う意味を年末にあてたものです。
まさに動物病院もその言葉が当てはまる年末となりました。それは11月の終わりごろ、夜行性館で始まりました。前号でお伝えしたツチブタの赤ちゃんの、目の周りが腫れて開かないというのです。目やにも多く、何が原因なのかはその時点では何とも言えませんでしたが、赤ちゃんの体を傷つけないように敷いてある乾草が原因として考えられました。当面、眼を洗って、目薬をやったりということを1日3回行ない、2、3日すると眼が開いてくるようになりました。しかし乾草を換えるとまた目やにが出てきてしまい、そのうち眼が白く濁ってきてしまいました。そこで薬を換えて、今ではかなり透明になってきましたが、まだ毎日の点眼は体重測定と共に日課として続いています。
ツチブタにやや遅れて、今度はゴリラのゴロンに異変が現れました。水をよく飲むようになり、落ち着きがなくなり、餌が残るようになってきました。実はこれと同じような症状が昨冬にもあり、虫歯と歯周炎をおこしていました。前回の虫歯の治療が一時的なもので、いずれもう一度麻酔をかけて治療しなければならないことはわかっていましたので、12月の中頃に治療をすることになりました。
吹き矢で麻酔をして、10分後には治療を開始しました。口を開けてみると、以前治療したところはもちろん、何本も治療が必要なところがありました。特に上顎の奥歯がひどく、歯ぐきが倍以上に腫れあがっていて、今回痛がっていたのはここだろうと思われました。とりあえずは上顎の5本の歯の治療を行ないましたが、今回は時間の都合上できなかったのですが、下顎にもいずれ治療が必要なところがいくつかあることがわかりました。麻酔から2時間後に無事治療は終了しましたが、大きな宿題が残ってしまいました。
そんなこちらの心配をよそに、ゴロンの方はその夕方にはもう餌をバリバリ食べていました。問題となっていた部分を取り除いたとはいえ、まだあれだけ歯ぐきが腫れているのに、やはり大したものだと感じました。
もう一つ頭を悩ませているのは、シロサイのメスです。12月のある日、突然左後肢の運びが悪くなり、体重をかけないようになりました。痛みを和らげる薬を出しましたが、その2日後、その足の蹄の上あたりから膿が出てきました。これはまずいと、すぐ抗生物質の飲み薬を出し、傷口の消毒をすることにしました。餌をやりながら、ブラシで体をこすってやると、気持ち良いのか傷口の処置をさせてくれます。しかしやがて餌の食べ方が悪くなってきてしまい、皮膚がはがれて傷も広がってしまっているので、薬の方は飲み薬から注射に切り替えることにしました。サイは皮膚が厚いので、注射でその効果を得るためには首の横から肩にかけて注射をするしかありません。また、体も大きいのでその量も半端ではなく、吹き矢では10本近くになってしまうので、手で直接打つのが最良の方法でした。しかし、さすがに首の横に針を刺せば「何すんのよ!」と角を振ってきます。それを何とか、声をかけながらブラシで体をこすってやってご機嫌をとりながら治療を続けました。
一時期は左後肢全体が熱を持ってしまったり、かなり膿が出てきたりしたのですが、10日ほど注射を続けると、何とかヤマを越えたようでした。しかしその頃にはいくらなだめても、注射をしようとするとかなり嫌がるようになってきたので、飲み薬と傷口の消毒に切り替えました。面白いのが、消毒の時ブラシでこすっているのがうらやましいのか、オスの方も「僕もこすってくれ」と扉をガタガタいわせて催促するようになりました。
今では傷の消毒だけにしていますが、膿もほとんど出なくなり、皮膚がはがれてしまった所も徐々に盛り上がってきていますので、なんとかこのままいって欲しいと思います。
その他にも色々な動物の治療をしている状態が続いています。商売繁盛とはいえ、治療で忙しいというのは歓迎できることではありません。年も明けたことですし、この忙しさにも一段落ついてくれないかと思っています。
(金澤裕司)