でっきぶらし(News Paper)

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動物病院だより☆新米母さん奮闘記☆

 春から夏にかけてというと、四季のある地域に生息する多くの動物にとっての繁殖期であり、ここ日本平動物園でも多くの新しい生命が芽生えます。そんなあちらこちらで親子の触れ合いが見られる、微笑ましい季節なのですが、あまり子育てが上手ではない親の場合は人工的に子供を育てなければなりません。鳥では親が全く卵を抱かなかったり、途中で放棄してしまったりという場合がそれにあたるのですが、そのような時は多くは孵卵器という、湿度と温度が調節された、親が卵を転がすように自動的に卵を動かす機械の中で孵化することになります。しかし、温度調整、湿度などの環境の設定が微妙で難しい部分があります。孵化した後も人間の手で餌を与えたり、またキジやカモなどの場合は上手く餌付かせなければならないなど、難しい点があります。
 しかし飼鳥の中では子育てが上手な種類があります。ジュウシマツ、チャボ、ウコッケイといった種類です。このような鳥たちに子育ての下手な鳥の卵を抱かせることがあるのですが、この場合のお母さんたちを仮母といいます。今年は黒い羽と胡麻塩模様の羽の2羽のメスのチャボが病院にいたので、そのような卵のいくつかを任せてみようかと思いました。
 チャボが卵を産み始めて、ある程度卵がたまると2羽一緒にそれを抱き始めました。そこで卵への執着心を調べようと、チャボを退かそうとすると、羽根を膨らまして怒りましたので、充分に卵への執着心が出てきていると判断しました。ちょうどその時にオシドリの卵が入ってきましたので、まず最初にそのうちの卵5つをチャボの卵と入れ替えて抱かしてみました。すると何の問題もなく2羽一緒に抱き続けました。ここでおもしろいのは、胡麻塩模様のチャボは真面目に抱くのですが、黒いチャボは飽きっぽいようで、よく抱かずに外に出ているのが見られました。この時は卵が有精卵かどうかの確認をせずに入れてしまったのですが、5個のうち3つが有精卵で、そのうち2つが孵化しました。そのうち1羽は孵化した日がちょうど大雨であり、夕方チャボから離れていたので、大丈夫だろうかと心配していたのですがチャボの母さんに任すことにしました。心配しながら翌朝来てみると、残念ながら死亡していました。しかし残った1羽は元気いっぱい走り回り、チャボの母さんについてまわります。
 また、チャボの母さんが見つけたミミズを奪い取ったり(?)、まあこれはチャボがヒナに与えていたのかもしれませんが、そんな風に見えるほど元気で、病院で人が育てているヒナよりもはるかに逞しく見えました。 
 やがてヒナが大きくなり、チャボから離すときは胡麻塩模様のチャボは「私の子供をどうするの!」と言わんばかりに本気で向かってきました。自分の子供だと思って一生懸命育ててくれたようです。ちょっと悪いことをしたような気がしました。
 オシドリのヒナをチャボから離してしばらくすると、再び卵を産み始めたので、今度はチャボに近い仲間のキジの有精卵3つがあったので、それを抱かせることにしました。すると今度も相変わらずで、胡麻塩模様のチャボが真面目に抱き、黒いチャボはさぼり気味のように見えました。しばらくして今回は2羽が孵化したのですが、子育ての様子に違いがあるように見えます。今度は黒いチャボの方が抱いて世話をしているのが多いように見え、ヒナの方も胡麻塩模様の母さんより黒い母さんになついているように見えます。
 なぜこのような変化が見られたのかは、経験を積んだからなのか、キジという近い仲間だからなのか、よくはわかりません。でもまだこの新米母さん、特に黒いチャボは2羽そろってやっと一人前かなあと話しています。しかし人間が人工的に育てるよりは遥かに鳥らしく、野性味があるように育っているように感じます。また将来的にも、鳥として次世代に命を繋いで生きていくには、この方が良いように感じます。これからもこの母さん達にはがんばってもらい、数多くの様々な種類のヒナ達を育ててもらいたいと思っています。
(金澤裕司)

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