127号(1999年01月)5ページ
動物病院だより
徐々に日が延びて、夕方の園内の巡回が終わる頃にも日がまだ残っており、段々と春が近づいてきました。
動物園を正門から入り、フラミンゴの左側を通ってゆくと中型サル舎が見えてきます。その中にブラッザグエノンというアフリカに生息するサルがいます。このブラッザグエノンの家族は、一昨年の秋に長年家族を増やしまとめてきたお父さんが死亡してしまいました。そこで昨年の5月に世代交代のために1993年生まれのオスが神戸の王子動物園から来園しました。
最初は残された母さんとその娘2頭のメス3頭と中型サル舎で同居したのですが、あえなく残った家族のお母さんにやられてしまいました。残された家族は、こんな新入りの若者には任せられないと思ったのかもしれません。
そこで2頭にうまくやってもらおうと、病院でお母さんと檻越しに見合いを始めました。しばらくすると、オスが威嚇するようになったので、檻の間の網を外し、同居をしました。するとオスの方がかなり威張るので、これはもう大丈夫だろうと、中型サル舎に2頭とも移しました。
しかし、病院ではあれだけ威張っていたのに、獣舎に移った途端に弱気になり、メス達の顔色を伺うようになりました。そしてその数日後再びお母さんにやられてしまったので、母さんを再び病院に収容し、娘たちとオスの3頭で同居をしてみようということになりました。
しかしまた数日後、今度は娘の長女の方が母さんのいない間は「私が何とかしなければ」と思ったのか、オスを攻撃し怪我を負わせてしまいました。結構大きな傷でしたので、すぐにオスを入院させることになってしまいました。体の線がまだ細いとはいえ、体長自体はもうメスよりも大きく、大きな立派な犬歯を持っていますので、彼が本気になればメスは大怪我してしまうと思うのですが、気が優しいのか同居作戦はまた失敗してしまいました。
そこで次に考えた方法は、オスの怪我が治ったら長女も病院に引き取り、比較的おとなしい次女と2頭で中型サル舎で同居させ、オスに充分馴れてもらった後で、母さん、長女と同居しようということになりました。
次女との同居はトラブルなくうまく行きました。しばらくすると交尾もするようになり、この2頭はもう大丈夫だろうということで、残りのメス2頭との同居の時期を待っていました。
そして次女と同居を始めて半年が経過した今年の2月下旬に、4頭での同居を試みました。最初は?拶をしたり、コミュニケーションをとっていて、これはいけるかもしれないと思っていたのですが、しばらくすると長女が攻撃を仕掛け、オスは再びやられてしまいました。怪我は尾に少しあるくらいでそれほどでもなかったのですが、精神的なショックが大きかったようなのですぐに病院に入院させ、傷口も縫合しました。
餌も翌日には食べ始めたのですが、やはりショックだったのか今一つ元気がなく、しょんぼりしていました。しかし、それもほんの一時的なもので、すぐに人に対して歯をむき出しにして威嚇するようになってきました。「お前、ここで威張ってもしょうがないだろう、どうにか新しい家族とうまくやってくれよ」と語りかけてみますが、なかなか解ってくれないようです。
新しい群(社会)の中に入ってゆくのは、他の動物でも、そして人でも難しい面があります。でも、ここに新しい家族を作るために来た以上は、何とか頑張って欲しいものです。とりあえず次はどのような方法ならば同居がうまくいくのか思案中です。
この季節、進学、就職、転勤などで新しい世界へ唐ン入れる方もいるかと思いますが、動物の世界もそんな時はなかなか大変なようです。
(金澤裕司)