127号(1999年01月)9ページ
動物園こぼればなし 〜 カンムリヅルの記憶力 〜
(三宅隆)
フライングケージの中には、開園以来カンムリヅルが飼育されています。この古参のカンムリヅル、他の動物職員には何ともないのですが、私がケージの中に入ったり前を通ったりすると、あばれて飛んだり、クワッ、クワッと高々と鳴いたりするのです。私が獣医として捕まえたり治療したりしたせいでしょうか。とにかく私にだけ反応するのです。ですから私は、ケージの前を通る時はいつもそっと隠れるようにして通るのが常でした。
その後、私は職場を異動し、動物園へ2年振りに戻ってきました。そして久しぶりのケージの前を通った時です。私を見たツルは、突然そわそわし、クワッ、クワッと鳴いたのです。背広にネクタイと、以前とまったく違う格好をしていたにもかかわらず、彼は私の事を覚えていたようです、すごい記憶力です。また通るたびにあばれるのかと思うと、うれしいやら悲しいやら少し複雑な心境でした。
しかし、彼も寄る年波には勝てず、10月末に老衰で死亡しました。今ではケージの前を通っても、もう誰も反応してくれません。何となく寂しい今日この頃です。