134号(2000年03月)6ページ
ゴリラ(ゴロン)のある日の日記より(後編)
1999年7月8日午後3時45分
夕食の時間である。こんなに早い時間に夕食なんてと思うかもしれないが、動物園の動物達にとってはこれが日常である。動物園の閉園時間は午後4時30分なので、こんなに早い時間になってしまう。
俺達の部屋につながる扉が開き、トトから入る。続いて俺が入っていく。途中まで行くと通路の扉が閉まっていて、部屋に入れない。放飼場の方にもどって行くと、扉も閉まっていた。トトは放飼場の裏にある部屋に入っていってしまった。
これがトトを見たのが最後になろうとは!
俺がもう一度自分の部屋にむかっていくと、今度は通路の扉も部屋の扉も開いていたので入っていきいつものように餌を食べはじめた。好物のバナナ、リンゴ、パンを食べているとトトの部屋で何か音がしている。
なにか感じが違う。
臭いも違う。
そっと近づきのぞいてみると、なんと、太ったおばさんゴリラがいるではないか! なにかの間違いではないかと、もう一度目をよく開けてみると、やはりいる。夢ではないか。最愛のトトは、どうしてしまったのか。ひと呼吸して、心を落ち着かせ、冷静な気持ちになり、気づかれないようにのぞいてみたところ、目と目が合ったからたまらない。ギャー・・・どこから出たのかわからないさけび声!冷静な気持ちなんかどこかにすっとんでしまった。
「お前は、だれだ!」
「どこからきたんだ!」
「そこの部屋はトトの部屋だ。出ていけ!」
俺が大声で叫んでもおばさんゴリラはしらん顔。なにを言っても返事もない。
年増なゴリラになると、こうもずうずうしくなるのか。
しかし、たとえ年をとっていても新入者なのに、何年もいる態度である。
なさけない話だが、長くいる俺の方がおろおろしている。どうしていいのかわからない。
時間も過ぎ、おばさんゴリラも少し動きだし、扉ごしにチラッ、チラッと俺の方を見ている。よく見ると目だけは、丸くて可愛い目をしている。
目と目が合うたびに、イライラしてしまいギャー、ギャー
どうも横の部屋が気になって落ちつかない。
俺がおとなしくしているのに、時々ガラスや扉をたたいて俺にケンカを売っているようだ。俺もついに頭にきた。
近くにあったキャベツや白菜を、おばさんゴリラに投げつけてやった。
夜も寝つけなくなってしまい、ストレスもたまってきた。
俺がギャー、ギャーさわぐと、オランウータンのオスがうるさいと言わんばかりに、ドン、ドン、ドンと力いっぱい扉を叩き、ライオンがウォー、ウォー、・・・・・。
このさわぎが5分から10分おきに、あくる日の朝までつづいた。
明け方、イライラがピークに達してしまった。部屋と部屋の仕切りの扉にビョウを打ちこんである。その扉を鉄棒ににつかまり、おもいきり蹴ってしまったのである。
ビョウが両足の裏に刺さってしまったからたまらない。傷も深い。指の方も痛い。
ついてないなァ ─── 自分でした事とは
いえ、ああ、やになっちゃう!
高温、多湿の夏である。数日後、内側から化膿してしまい、両足は腫れ上がり、熱が上がり、食欲はなくなり最悪・・・・。
傷口を消毒し薬をつけ治療をしなければならない。野生動物では無理な話である。
でも、そこがそこらのゴリラと俺の違う所。痛い傷を治療してもらうため、キーパーの前に座り両足をあげ、毎日4〜5回素直に治療してもらっている。
病院のベッドの上でおとなしく寝ているか、松葉杖をつかって傷をかばいながら歩けば早く良くなると思うが、いくらなんでもゴリラの俺には無理である。 足の裏なので、どうしても歩くたびに床につくのでなかなか治らない。1年たった今でも治療中ある。長い間、部屋にいるとストレスがたまること、たまること・・・。 獣医さん、飼育係さん、俺だけだと淋しいから、「俺の相手をしろよ」って時々呼ぶからな!これからも、よろしくたのむよ。仲良くやっていこうよ。
(小野田祐典)