135号(2000年05月)2ページ
〜病院だより〜 アリの大名行列
毎日続く梅雨空、病院の台所で動物たちの朝食の仕度をしている時誰かの声がする。何か感じる、周囲には誰もいないはずなのにおかしいナ?。
そんな時ふと足元に眼を懲らすと、小さなアリの大群が行列をなし排水溝から動物ケージに向かっているではないでしょうか。息を殺しそっとその距離を縮めると、「オーイこら急げー。早くしないと巨人の足に唐ワれるぞ急げ!。そこの奴、道しるべはしっかり付けているか?、列を乱すなヨ。」一方では「こら=そんなところで休んでつまみ食いをしている奴がいるか、さっさと運ぶんだ。この餌はこれから生まれてくる子供達の大事な食糧なんだぞ、コロニーの宝物なんだからナ、さアー働け、働け」じっと見ていると、彼らがそんなやりとりをしている様に見えてきた。
アリはとても種類が多いが、その生活様式はミツバチに似ており、一匹の雌(女王)、数匹の雄と多数の働きアリで集団生活を営みます。雄と雌には羽があり集団で結鵠?行の間に交尾が行われ、やがて雄は死に、雌は自分で羽を咬みきり、巣作りを行う。 アリを題材にしたことわざ喩えは数多く、「アリの穴から堤も崩れる」=ごくわずかな手抜かりから大事が起こること。 「アリの甘きにつくが如し」=人が利益のある方に集まるたとえ。「アリの思いも天にとどく」=力の弱いものでも、一心になればやがてその思いが達せられる。 「アリの這い出る隙もない」=わずかな逃げ道もないほど、警戒が厳重であるたとえ。
“アリの道雲の峰よりつづきけん” という小林一茶の名句に読まれているように、アリの巣(コロニー)と餌の間に作られた行列は、まさしく戦国時代の大名行列のごとき、多くの人々にさらされてきた。このようにアリは昔から我々の身近な生き物として知られてきた。
また、少し違った意味合いで、「アリ地獄」という言葉を耳にしたことがあると思いますが、アリ地獄はウスバカゲロウ科の昆虫の幼虫を指すが、幼虫が造ったすり鉢状の巣穴を意味する場合が多く、世間的にはこちらの意味で使われることが多い。一方アリ地獄が捕食する餌はアリが最も大きな比率を占めているため、この名前の由来とも云われている。
人は未知の山道にはいるとき、樹木などに道しるべを付け、道に迷わないようにするが、アリの場合は目に見えない臭いの道しるべを付け、しかもそれを的確にするための物質まで予め付けて行く、二段構えの方法をとっている。アリの道しるべ物質は、腹部の腺などで作られて腹の先から分泌される所所謂「道しるべフェロモン」である。
まず経験を積んだ偵察役の働きアリが餌を発見すると、腹部からフェロモンを出しながら巣に帰ってくる。そして次に必ず仲間の働きアリを連れ立ってその道しるべを逆に辿って餌に到達し、それを運んで帰りながらフェロモンを付けるので、道しるべは更に補強される。餌のある限り臭いの道は続くことになる。道しるべフェロモンはその種類によりその主成分の配合割合が異なり、そのため他の種類のアリに餌を略奪されたり帰り道を誤ることもない。餌がなくなると道しるべは補強されないので揮発性の高い道しるべ物質は急速に消えてゆく、もし消えずに長持ちしすぎたら、新しい餌への道しるべとの間に混乱が起こってしまう。一方揮発性の低い物質を使っているアリもおり、アリはそれぞれの生態に良く適した臭いの道しるべを使用している。
二段構えのもう一つは、道が造られる時、道しるべフェロモン以外にもう一つの物質が係わっている。脚の先端ふ節の裏に小さな孔があり、そこから体表炭化水素と同じ物質を分泌しながら歩くことによって地表面がコーティングされ道しるべフェロモンの吸着を防いでいる。予め防水加工剤を処理しておいて道しるべを引く理屈である。この防水剤はコロニー臭にもなり縄張り標示の役をする。
こんなに賢く働き者のアリに我々は毎年の様に悩まされている。殺虫剤を噴霧しても一時の効力、時間と共に再び現れるアリたち。
そんな時、某テレビ番組でアリ退治に、チョークの粉がアリの道しるべ破壊に効果があることを知り早速実践、外壁の周りにチョークの粉を蒔く、それは効果覿面、行列は寸断されアリたちは右往左往しいつの間にかアリの姿はそこから消えた。しかし問題があった、雨が降ると粉が流出し再び大量の粉が必要となる。何かの良い策はないだろうか?
(海野 隆至)