135号(2000年05月)3ページ
〜友の会コーナー〜 【ニホンイシガメはどこへ行くのか?】 村松 卓
夏になると、全国各地で盛んに祭りが行われ、そこに必ず縁日が開かれています。その屋台の一つにカメを売るお店があったことを思い出します。ところで、最近、変わったことに気づきませんか?そう、ニホンイシガメがあまり見られないのです!
ニホンイシガメは、日本にしかいない固有種で、甲長20〜25cmになる、背甲が茶色、腹甲が黒色のカメです。この幼体は、上から見ると甲が丸く、大きさも似ていたことから「ゼニガメ(銭亀)」と呼ばれていましたが、現在「ゼニガメ」というと、日本、中国などに分布する「クサガメ」の幼体を指します。いつからそうなったのかは不明ですが。
なぜ昔「ゼニガメ」とまで呼ばれ親しまれてきたニホンイシガメが見かけられなくなったのでしょう?
1つは、皆さんの想像通り「環境破壊」です。
ニホンイシガメは比較的水のきれいな所を好みます。よどんだ様な水中で生活するのは厳しいのです。川岸をコンクリートで固め、生活排水を流すようにした結果、彼らが住める環境が減少してきてしまいました。たとえ、いくら水がきれいでも、エサとなる水生生物はコンクリートでは生きられませんから、食物連鎖の関係が崩れてしまった・・・。
2つ目は、農薬などによる影響。ここでいう農薬とは、我々人間の食べる野菜などだけに使用する物ではありません。山の上にゴルフ場を作り、その芝生の為に使用する農薬、経費節約の為か、ヘリコプターを利用した広域的農薬散布農薬など、これらが雨に流されて清流へ流れ込み、彼らの生息域に何らかの影響を与えているのは確かです。
そして3つ目、これが一番の問題!アカミミガメ(ミドリガメ)が大量に生息・繁殖してきたことです。アカミミガメとは、縁日や、最近ではホームセンターでも売られているあのカメです。「え?あのかわいいのが?」と思われるかもしれませんが、子供の時はトラやライオンだってかわいいんです!アカミミガメのメスは甲長40?pになるって知ってました?図鑑などでは30?p前後と書いてありますが、現に私は38?pのメスを見たことがあります。また、アカミミガメは言うなれば悪食(あくじき)で、それこそ何でも食べてしまいます。そう、ニホンイシガメの卵や幼体でさえも・・・。昔、両者を同じ水槽で飼育していて、甲長6?pのニホンイシガメが甲長8?pのアカミミガメに食べられてしまったことがあります。エサをちゃんと与えていてです!それは単なる事故だったかもしれませんが、それ以来、アカミミガメに対する私の見方が少々変わりました。そして、アカミミガメは、さほどきれいではない水でも生息できてしまいます。ニホンイシガメほど、うるさくないのです。さらに、アカミミガメの「野良ガメ」の増加。小さな時に「かわいい」と買ってきて、しばらくしてから「あきた」「買ったときのままの大きさかと思っていた」「サルモネラ菌を持っている」等々で近くの池や山に捨てたりした無責任な飼い主の結果、日本固有種のニホンイシガメがアメリカ産の外来種アカミミガメに生息地を乗っ取られようとしているのです。
これと少し意味合いが異なりますが、最近話題になった佐渡のトキですが・・・。「でも今年も孵化しているじゃない?」と思ったあなた、あの親は両方とも中国で生息した個体ですよね。純粋な日本産のトキはあと1羽。世界であと1羽だけなんです。アメリカバイソン、アホウドリなどは同じ様な絶滅の危機から立ち直りつつありますが、ニホンイシガメのようなハ虫類は成長が遅いので、それら以上に時間が掛かると思います。ガラパゴスゾウガメがいい例です。
ニホンイシガメはどこへ行ってしまうのでしょうか?確かに、我々の生活とは直接関係のない動物かもしれません。しかし、本当に必要のない動物なら、我々人間が手を下さなくても、自然界が自ら手を下すはずです。フクロオオカミ、ドードー、ニホンカワウソ、ニホンアシカなどなど・・・、これらの仲間入りをさせてしまってはいけないと私は考えます。
(追記)今年の4月から動物関係の法翌ェ改正され、カメを含むハ虫類を捨てたりすると、罰せられることとなりました。命ある動物を守ることは我々人間の責務です。大切にしてください。