141号(2001年05月)2ページ
オランウータン・ジュリー・その後
前号で紹介したオランウータン・ジュリーが来園して早いもので、もう二ヶ月が経ちました。採食、健康状態などは申し分ないのですが、飼育してゆく中での重要な部分、寝部屋間の移動がスムーズではありません。
短くて一週間、長い時で十八日間も部屋を移らず居座ったことがあります。その次が十日で、この二回を合わせると来園して二ヶ月のほぼ半分は、同じ部屋に移動しないまま暮らしたことになります。
こんなにもかたくなに移動をいやがる類人猿は初めての経験です。過去に何回か、チンパンジー、ゴリラ、オランウータンの来園したばかりの頃を世話してきましたが、全く記憶にない頑固さです。
実はいきたくない部屋というのが、今は亡きベリーが十数年生活していた部屋で、私達は冗談に「多分、俺達には見えないがジュリーにはきっとベリーの姿が見えて、それがいやで動かないんだ」と話をしたりしています。もちろん、そんなことはないでしょうが!
ともあれ、十八日間も動かないとなると、食べることは充分過ぎるくらいだと、出るものもたっぷりです。次第に臭いもきつくなり目にも染みてきます。
当のジュリーもいやらしく、元々はきれい好き(きれい好きの奴が、なんで十八日間も糞だらけの部屋にと思われるでしょうが)、寝台の上から床に落とし、少しでも汚物は遠ざけようとはしています。
私達もこれが限界、明日はおどかしてでも移そうと話したその日の夕方にあっさりと移ってくれました。
皆さんは、何故そんな状態になるまで我慢するのかと思われるでしょう。お互いの信頼関係がある程度成り立つまでは、無理矢理いやがることをするのは賢明ではありません。双方、何の得にもなりません。
ましてや相手はもう相当の年令、完全に自我を形成してしまっています。こちらが気長に接するしかありません。 ジュリーが前にいた園でも、気に入らないことがあると部屋から頑として動かなかったそうです。今の状況は、環境の変化も唐ワえると致し方ないでしょう。
聞いた話によると、オランウータンが出入りがスムーズにいくようになるまで三年もかかった園もあったそうです。
とにかく部屋の出入りは、こちらからのかけ声ひとつでスムーズにいかないと先に進めません。ジュンとの同居、放飼場への展示はまだちょっと先になりそうです。
追、オリ越の見合いは、お互い騒がず見つめ合って、いい感じのように思われます。
(池ヶ谷 正志)