141号(2001年05月)3ページ
〜あらかると〜 爬虫類つれづれ ワニの利口さに接して
爬虫類を分かってもらうには、大変な努力を求められます。まずたちはだかるアレルギーの壁、これを取り除くのが一苦労です。いきなり愛らしいなんて言おうものなら、もうその人は変人、奇人の枠にはめ込められかねません。
でも、まあそう嫌わないで彼らの面白いところ、素敵な素顔を分かって下さい。と、担当者としてはやはり言いたくなります。五年間接して、彼らは間違いなく魅力に溢れた生き物である、そう言い切れますから。
ワニ、爬虫類の中では最も種数の少ない生き物です。当園での飼育も、クチヒロカイマン一種類にしか過ぎません。わずか二頭の彼らですが、他のカメやヘビやトカゲとは別格であることを、しばしば垣間見せてくれます。
猛獣的な存在だから、そうだと言うのではありません。吠え声は確かにライオンにそっくりです。低くひびいてくるその声は正に迫力があり、うかつに近寄れない動物であると思い知ります。が、それよりも何よりも、彼らは爬虫類にしては大変頭のよい生き物なのです。
カメが、ヘビが、トカゲが、卵を生んだって後は知らんふりです。哺乳類が見せる心暖まる親子の光景を求めるのは、土台無茶な注文です。
でも、ワニは違います。餌こそ 与えはしませんが、危険からは精 一杯我が子を守ろうとします。母 子のほのぼのをちゃあんと表現し てくれるのです。
危険が迫ったら口の中に我が子を入れてかばう、頭に尻尾をつけて小さな、しかしながら安全なプールを作ってその中で我が子を遊ばせるなど、その容姿からは想像もつかない愛情表現を垣間見せてくれます。意外に知的な動物、と言えなくもないでしょう。
ワニは、現存する爬虫類の中で最も恐竜に近い動物だとも言われています。それは鳥類に近いとも言えます。いったいどこが鳥に近いんだなんて問い返されると私も返事に困りますが、体の仕組み、構造にそれを示唆するものがある、と解してよいのではないでしょうか。
で、飼育係には、どのような時に頭の良さを感じさせてくれると思いますか。実は掃除の時なのです。プールの水を抜き始めると、嫌いな飼育係?が入ってくると解しているようです。ほぼ抜け切る頃までに、何も言わなくたってオスはさっさと部屋の中へ入っていきます。メスは部屋の中に入るのが いやなのか、時々しぶりますが。
このように、こちらの動きに対応してくれるのが、良きにつけ悪しきにつけワニって訳です。当然、ちょっとした意地悪にも報復が待っています。
いじめって訳でもありませんが、メスが部屋になかなか入らないとどうしてもせっついてしまうことがあります。それがよくありません。そんな日の翌日に隣のカメの部屋にいて間近に顔を合わせようものなら、途端に脅しをかけてきます。
もっとも、前々任の方はワニのプールを掃除する時もいっしょに入っていたそうです。そりゃあ変温動物ですから、温度を下げて後ろから接触する分にはそう危険性はありません。ですが、話を聞いているとそんな風でもありませんでした。
まだまだ足元にも及んでいない証拠でしょう。頭の良い動物だと紹介しておきながら、彼らが持っているもっと様々な能力を、私自身がまだ探り切っていない証でもあるでしょう。
メスは、今年産卵しそうです。春には発情と交尾も確認しています。有精卵を取れる可能性も大です。
なんと言っても驚かされたのは、部屋の中に敷いてあったわらを集めて固める巣作りを始めたことでした。もし、そこに生んでくれれば、何もしなくても、そのままふ化を待てる状況です。それは又、彼らの持つ潜在能力をうかがい知るチャンスでもあるでしょう。
(松下 憲行)