でっきぶらし(News Paper)

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実習生だより 「博物館実習を終えて」

 東海大学海洋学部 野本敬子

 私は日本平動物園での実習が始まるまで、学芸員の仕事は美術館や博物館、水族館、科学館などでの資料の保存のようになるべく日光を避けたり、湿度・温度に気を遣ったりした作業のイメージを強くもっていました。そのため動物園での実習ではどのような資料を保存するのか、学芸員として具体的にどのような仕事をするのかあまりよくわからないままに、ただ、飼育実習をしたい、今まで見てきた水族館や博物館とは異なる実習を経験したいといった思いで動物園での実習をお願いしました。

 夏休みから秋学期の始まりの期間の実習であった為、夏休みと平日の両方の行事を経験することができました。サマーカーニバルとしてアシカ、ペンギンへの魚、シロクマへの氷(リンゴ入り)プレゼント、日曜のスポットガイド、秋学期幼児教室、また、静岡・清水市合併による新シンボルマークの公募集計といった特別なものもありました。

 それらの中で一番印象的であったのが、9月1日地震避難訓練の日でした。今まで経験してきた人間が安全を確保する訓練というよりは動物達が中心の避難訓練であり、動物達を寝部屋から表の放飼場に出した後、また寝部屋に誘導することや、放水訓練、動物が脱走したときの対策として麻酔銃の訓練を行っていました。この日は私のゾウ、キリンの初飼育実習でもあったのですが、避難訓練でいつもの時間通りでないことをゾウは感知して午前中は不機嫌であったそうです。毎日同じことを繰り返すより、こういった変化があった方が動物にとって目新しくて良いのかと思ったのですが、そうではなく毎日を同じようにすることが大切であり、難しいことなのだそうです。ゾウもキリンも大変神経質であり、初めて出会う私の姿が見えただけで興奮してしまい、私は飼育員の方に指示されながらようやく動物に近づけるといったふうでした。ゾウには触ることもができたのですが、あまりの大きさと突然機嫌を損ねたらどうしようと思いに大変緊張しました。そしてゾウの方も緊張をしてオシッコをしてしまい、大きさは全然違うのにゾウも私も同じくらい緊張していたようです。しかし、その分ゾウに対して親しみを感じることができました(考えてみればゾウが大きいからって傲慢だったら怖いですね)。

 今回の実習では事務的な作業や看板作り、クイズラリーの問題作り、骨格標本作りなど様々な実習をさせていただきました。それらの全てに動物園ならではの知識が豊富に含まれておりました。屋外展示であるゆえの問題として雨風光による展示物のいたみ、落ち葉・クモの巣などからの見た目保全、動物を見ることを活かした学習機能の持たせ方、資料(骨格標本)の作り方など。

 また、飼育実習は多くの種類の動物を行うことができました。動物ごとに飼育方法が全く異なることを実感することができ、とても良い経験になったと思います。主に力仕事であり気を遣うゾウ、キリンの飼育、人をみて判断するサル達、臆病なシカ達、興味津々に近寄ってくるアシカ、鳥類や小動物の口の大きさに合わせて餌を用意する熱帯夜行性館。動物ごとに異なる点に苦労があり、知識が必要な飼育は専門的な作業であるのです。動物園においては動物自体が展示物で一次資料であります。その資料の保存が飼育にあたり、繁殖が含まれるということを改めて学びました。授業で習っても動物が資料といった感覚はあまり得られませんでしたが、今回の実習で飼育の専門的な作業は、博物館などの資料の保存の専門的作業と同じなのだと身をもって学ぶことができました。

 動物園での実習では今までの学芸員の勉強では学べなかったことを多く学ぶことができました。資料が命あるものである為に学べたということも多かったのだと思います。また、2週間の実習がすべて楽しいものであったのには、動物園での職員やボランティアの皆さんの雰囲気が大変明るく楽しいものであったからです。こんなに楽しく学べて実習となることを申し訳なく思うほど楽しかったです。この楽しさと学んだことを多くの人に伝えていきたいと思います。多くのことを学ばせて頂き、本当にありがとうございました。

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