156号(2003年11月)10ページ
病院だより バクのためならえーんやこーら
皆さんは動物園で動物たちをご覧になるとき、どのような印象を受けるでしょうか。野生動物を人の作った場所で飼育する訳ですから、なるべく生息環境に近い状態を整えることが必要となります。また、例えばチンパンジーの展示場は檻に囲まれていて一見閉鎖的に見えるかもしれませんが、天井の檻にぶらさがって「うんてい」したり、張り巡らしたロープを自由自在に「綱わたり」する動作は、野生で木の枝をつかんで移動する行動の代わりとなります。他の動物園でも、鉄パイプを組んで作ったジャングルジムやタワーを備えているところもあります。チンパンジーは三次元(縦・横・高さ)を自由に動き回る動物なので、このように人工的な施設であっても野生本来の行動ができるということも大切です。動物たちが少しでも快適に暮らせるように、飼育係一同環境作りに気を配っています。
さて、今回はそんな環境作りに関するお話です。
昨年5月に子供のユメが生まれた、当園のマレーバク一家。今では赤ちゃんの印である縞模様も消え、ユメもすっかりバクらしくなりました。しばらくの間は、お母さんのミライに子育てに専念してもらうため、お父さんのシンを午前中に、ミライとユメを午後にと分けて展示しています。
そんなお父さんのシンは、以前から足の裏にささくれ傷を作り、治療を続けています。マレーバクは、本来湿地帯で暮らす動物です。彼らの歩き方に注目してみて下さい。後ろ足を後方に蹴り出すようにして歩くので、足の裏に擦り傷を作ってしまうのが悩みの種です。当園の展示場は土ですが、これが乾燥した硬すぎる土でも、水でびしょびしょになった土でもだめなのです。
そこで、そんなシンの傷が治るように環境を整えてあげようと、飼育スタッフでアイデアを出し合い、マレーバクの運動場の改修を行うことにしました。動物園の職員皆で、スコップを手に水はけの良くない土壌を取り除き、下地にパイプと砂利をいれて水の抜け道を作り、その上に土と枯れ葉を交互に重ねて、弾力のある土の運動場が完成しました。試しにその上を歩くと、少し硬めのクッションの上にいるかのようなフワフワ感があり、思わず感動!その後もシンの傷の治療は続いていますが、皆の努力の甲斐あって、だんだん良くなってきています。
皆さんも動物を観察する際には、「この動物はどんな環境で暮らしているのかな?」と少し視点を変えて見てみると、おもしろいと思いますよ。
(野村 愛)