174号(2007年02月)5ページ
病院だより シシオザルの子どもスクスク成長中!
昨年の9月4日に生れたシシオザル12番目の子供。
人工保育が始まってあれからもう4ヶ月が過ぎた。暖冬でした11月の終わりに短期間でしたが一般公開をして、愛称募集で頂いた名前「トニー」。(12番目に生まれた子だから)。
あの時も大勢のお客様の前で小さく切ったリンゴを、美味しそうにほお張る様子から「かわいいー。」と愛されて素直にうれしかったね。
初めの名前は私が健やかにそして、強い子に育つようにと念を送り「ガッツ」と名づけていました。今は「トニーガッツ」という格好いい名前で元気に成長している。
生まれた時体重は470gでよちよち歩きの彼でしたがは、すくすくと順調に育ち、今では1400gを越えようとしています。
頭胴長は約23cm、尾長は30cmを越え四肢も発達しジャンプ力はかなりのもので、助走なんかつけなくても、楽勝にひざ上まで飛び跳ね抱きつくことが出来るのです。
「すごいな!」思わず口からこぼれる一言である。
彼の遊び場、そして、寝室と言うべき巣箱は、安全地帯であることに間違いのない場所である。その蓋を開けながら「ガッチュー!」なんて甘い声を投げかけてしまったら、気持ちが伝わるせいなのか腕にペッタリと抱きついてくる。
「お母さんおはよ〜う。今日は昨日よりもずっとずっと一緒にいてね!」って言っているかのようだ。ずっとこのままで、ギュッ!っと抱きしめたいところだが、体を撫でる程度で我慢する。
なんてったって、ここからひと仕事なのだから。離乳食もそろそろ終わり、時間はかかるが一丁前に餌を食べている今日この頃。巣箱の中は食べカスなどでそれはそれはもう、ゴージャスである。おまけにシーツは引っ張られ、まるで嵐が駆け抜けて行ったあとそのものである。
そして、1日のタオル替えの量も半端じゃない。「泣けるぜー。」しかし、シーツがこんなにもくるくると丸まっているのは、きっと理由があるはずだ。勝手な解釈だが、夜は肌寒く包まりたいのか、それとも、ママとずっと一緒にいられない寂しさをこらえ代用しているかのどちらかだ。
私は後者であると信じたい。いや、そうであると信じながら(オバカ!)ホウキと塵取りを両手に持ち、せっせと掃除に励むのである。「こんなに汚してトニー・・・だけど結構食べているね。偉いぞ!」って感じで親ばかなのである。
餌の好みは、なんてったって果物が一番だ。オレンジやブドウ、リンゴ、そしてバナナやトマトもよく食べている。果肉はひとつ残らず吸い尽くし食べているし、煮にんじん、煮イモも食べるが後でゆっくりと採食しているような感じである。
掃除の最中は右に左にせっせと動かす私の腕へくっついている。少し迷惑そうな顔をしているが、振られて落ちることもなく頑張ってペッタリとしている。まるで、振り子時計の重りのようだ。
そうかと思えば、目の前を縦横無尽に飛び回ったり「今からそっちへ飛び移るよ、見ててね!」と顔で合図を送ってくるのである。次の瞬間、彼は勢い良く飛ぶのである。推定1m以上はあろうかと思う距離を全身のばねを使って、見事に私の膝あたりへダイビングし、しっかりとつかまるのである。
「えっー、こんなに飛ぶんだートニー。成長したねー。」自然に溢れ出た私の感情が分かるせいなのか、2回も3回もやって見せるのである。後で正確な距離を測ると1m43cmはあった。まさに、圧巻である。だがそれもそのはずである。
元々彼らの生息地はインド南西部の海岸沿いに張り出した小高い山脈のジャングルのなかで木から木へ移動し餌にありつく樹上での生活スタイルなのだ。
しかし、幼い彼の行動は成功ばかりではなく、勢いをつけ過ぎて滑って転んだりとお茶目なところものぞかせるが、日を重ねる事に容姿は一人前にシシオザルらしく、顔の両側はねずみ色の縦髪が少しずつ伸びてきて、下アゴあたりからのどと首にかけても同じく生えてきて立派なものであり、たくましくも見えてくる。
顔の色は若干白さも残ってはいるが、あと数ヶ月もすればおそらく真っ黒であろう。
野生では3000から4000頭しかいなく絶滅危惧種に指定されているこのサルを育てている私は誇りと責任をもって見守っていこうと思う。いつまでも、いつまでも。
(青木 光生)