211号(2013年04月)2ページ
ヒナを拾わないで!
ヒバリは、スズメくらい大きさの鳥で、私たちの住む静岡にも野生で暮らしています。田畑や原っぱのような開けた土地の草むらで生活し、昔はとても身近な鳥でした。開発によって、生息できる場所が減ったヒバリは、激減し、今では、法律で保護され、捕まえて飼ってはいけないことになっています。今回お話する、ヒバリの夫婦は、違法飼育といって、こっそり捕まえられ、飼われていたのを、警察に保護されて動物園にきた子達です。いまでも、違法飼育は後をたたず、毎年のように動物園に運ばれてきています。
ヒバリは、展示室内でも、比較的おとなしい性格で、エサや縄張りを主張する鳥に対抗もせずにぱっぱと逃げてしまう臆病ものでした。しかし、昨年の春、他の鳥が近づくと、冠羽を逆立て、口と翼を大きく広げて威嚇し、追い払う姿が見られたのです。人がそばを通っても、いつもはすぐ飛び立って逃げるのに、下のほうでじっとしています。このとき、ヒバリは、卵を温めていました。そして、抱卵から10日後、とうとう孵化です。ヒバリのヒナは、カルガモのヒナのように、生まれてすぐ歩くことはできません。目も見えず、羽根も十分に生えていない状態で生まれてきます。そのため、ヒナたちは、私がカメラをもって、近づいても、首を一生懸命伸ばして、「エサよこせ~」と反応してくれました。もちろん、親は、カメラに向かって、冠羽を逆立ててましたが。孵化から18日もたつと、かわいい綿毛に覆われ、目もぱっちりと開いてきます。こうなると、今度は私を見るなり、首をすくめて、じっとこっちを睨みながら、息を潜めるようになりました。
読者の皆様は、こんな風に、かわいいヒバリ親子の様子を、間近で見られて、さぞやいい思いをしていると思われるかもしれませんが、建物の中での、子育てのサポートは予想以上に大変でした。なんせ、外のように、ヒナのエサとなる虫が勝手にわいてきてはくれません。一日に一回だけ、どばっとエサの虫を部屋にまいても、ほとんどの虫がヒナの口に入る前に、同居しているほかの鳥に持っていかれてしまいます。そのため、毎日、数回に分けて、虫を与えにいくことになります。幸い、親鳥たちは、ヒナを守らなくてはならない義務感からか、虫をもらいに人の側までやってきてくれるようになり,くちばしに入るギリギリの、3匹もの虫を、何度も何度も落としながら、運んでくれたりしました。鳥は、成長期に体の大きさが決まってしまいます。いま、エサを十分に与えないと、体が小さいまま一生を過ごす羽目になってしまいます。どんなに手間がかかっても、この時期にしっかり食べさせなくてはなりません。担当一同、時間を作っては、何度も何度も、虫を与えに通いました。雛たちは無事、すくすくと育ち、孵化からちょうど1ヵ月後に、巣から飛び出してきました。
さて、巣立ち、と聞くと、十分に成長し、大空を舞い上がれるようになったヒナを想像される方が多いと思います。しかし、このヒバリの雛たちは、巣から出たときもフワフワの羽毛をまとい、ずんぐりむっくりの姿で、ピョンピョンと展示室内を跳びまわることしかできませんでした。池に落ちたら大変だ!とあわてて、池の水を抜いたほどです。
最近、動物園には、こういった巣立ち直後のヒナたちが「具合が悪そう」と保護されることが増えています。このことを私たちは、「誤認救護」とか「善意の誘拐」と呼んでいます。なぜなら、運ばれてくるヒナたちは、どこも体は悪くなく、本来なら、保護される必要はないからです。巣立ち直後のヒナは、たとえ、ヒバリと違って親鳥にそっくりな姿でも、飛ぶのが下手です。そのため、飛べるようになるまで、親鳥は、常にヒナの側で見守っています。なのに、人が、親鳥が側にいることに気付かず、健康なヒナを、間違えて連れてきてしまうのです。動物園では、親鳥のように、野生で生きていくすべを教えてあげることは出来ません。そのため、人が育てたヒナたちが、野生でも生きていけているかどうかは分かっていません。今、日本の小鳥たちが、どんどん数を減らしているといわれている中で、正しい知識がないために、人の善意すらも、野生の鳥を減らす原因のひとつになってしまっているのがとても残念です。
これからの季節、あのヒバリのヒナたちのような鳥が野外にも増えてきます。どうか、この記事を読んだ皆様が、外で飛ぶのがヘタな鳥を見つけても、「まだ巣から出たばっかりで、飛ぶ練習中なんだな。親鳥もそばで見ているんだろうな。」と見守ってくださるようになることを願っています。
飼育担当 中村 あゆみ