でっきぶらし(News Paper)

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≪病院だより≫フジ君、お口開けて~

 当園ではトラを開園当初から飼育していますが、アムールトラを飼育し始めたのは平成八年からです。最初の個体は生後六ヶ月でやってきたトシです。生後六ヶ月にしては大きな体でしたが、人懐っこい性格で来園した時から「フン、フン」鼻を鳴らせて近寄ってきました。その後、トシのお嫁さんのナナを迎えて多くの子供たちが生まれて、全国の動物園に旅立ってゆきました。残念ながらトシは死亡してしまいましたが、最後の子宝がフジとチャチャです。チャチャは今年の一月に熊本の動物園に貰われてゆきましたが、今回の主役はもう一頭のフジ君です。
 当園では肉食獣にはカルシウムなどの補強のために鶏頭を与えています。鶏頭とは文字のとおりに、鶏の頭です。ある日、フジの鶏頭の食べ方がおかしいと連絡がありました。「くちゃ、くちゃ」と何度も噛みながら食べて、左側だけを使って食べているようです。口の中に異常があるのは間違いないようなので、まずは抗生物質を飲んで貰いました。数日すると、よだれが増えてきました。状態は悪くなっているようです。口の中を調べなければと思いましたが、「お口を開けて~」と言っても、じゃれついてくるばかりで、おとなしく開けていてくれるわけもないので、麻酔をかけることにしました。麻酔をかけるには、麻酔薬を注射しなければなりません。でも猛獣は「お注射ですよ~」と言って、おとなしく注射を打たせてくれるわけではありません。吹き矢に麻酔薬を入れて注射をうつことになります。その場合も反応は様々ですが、警戒してウロウロ動き回ったり、吠えて怒ったりするのが普通です。吹き矢をうちにくい場所でじっとしていることもあります。
 さてフジの場合はというと、吹き矢をまだ打たれたことがないこともあってか、吹き矢を構えて近寄るとフジは「遊んでくれるの~」という感じで近寄ってきます。いつもの巡回で様子を見に来た時と変わりません。吹き矢は筋肉が多いお尻うつことが多いのですが、近寄ってきたのでかえってうちにくい状態になってしまいました。こちらが横に移動してもそちらに寄ってきてしまいお尻にうつことが出来ません。そこで一度距離をとり、一人が囮になって、フジを呼んでもらい、そちらにフジが行った後にお尻に吹き矢を打つことが出来ました。吹き矢が当たれば痛いので、普通は怒ります。
 しかしフジは「何か嫌なことされた」位の表情は見せましたが、全く吠えたりしませんでした。一本の注射では量が足りないので、二本目を打とうと吹き矢を構えるとさすがに怒るかと思っていたら、二本目の吹き矢を打つ時も特に怒りもせずに大人しく注射をうたせてくれました。麻酔が効いてきて寝てくれたので、フジが眠りについたかどうか檻越しに棒でつついて確認したあとに檻の中に入りました。
 まずは急に目覚められるといけないので、手足をロープで縛って、口を残して網で包みました。そして口の中を見てみると、大きな口内炎がありました。小さな口内炎もいくつかあります。また犬歯(牙ですね)の近くの歯茎に二センチ位の出来物があり、麻酔をかけた時にぶつけてしまったのか出血しています。まずはその出来物を切り取ってしまいました。その中には乳歯のかけらのようなものが残っていました。そして口内炎には塗り薬を塗って、注射を何本か打って処置を終わりました。今回の処置で口内炎がすぐに治るわけではなく、あとは飲み薬で徐々に治って貰おうと考えました。
 次の日、顔を見せても特に怒ることもなく、鼻を鳴らせてじゃれついてくれました。特に怨まれてはいないようです。でも「お口開けて~」と言っても開けてくれるわけではありません。飲み薬を続けて良くなったかなぁと思って薬を切ろうかと思っていた頃、再び口の中を気にして、舌で口の中をこそげとるような仕草が見られてきたので、薬をまた継続しました。皆さんも猫の舌を触ったことがあるかもしれませんが、猫の舌はザラザラしていてやすりのようになっています。トラは猫の舌と同様ザラザラとしていて、猫よりもさらに強力なやすりのようになっています。口の中が少し気になると、その強力なやすりでこすってしまい、状態を悪化させているようです。そこで効果の強い薬を長めに与えて、そのあと効果の穏やかな薬も長めにあたえる作戦にしました。これで治らなければまた麻酔をかけなければいけないかなと考えていたのですが、ようやくこれで口の中の炎症も治まってきたようです。嫌なことをされても怒らない、性格の良いフジ君。これで「お口開けて~」と言って、「アーン」と開けてくれると最高なのですが・・・。とりあえず状態が良くなってくれて、安堵しています。

動物病院担当 金澤 裕司

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